夢の都に捕らわれた死者

6月11日 深淵 GM:K
 舞台はバッスル侯爵領の街ガサード。PC達は雪解けと共に、ラルハースとの水争いを終え、ガサードを通りかかる。GMからの設定の指定は、最低一人、ガサード付近の名も無き村出身のものがいること。

PC1:フリッツ(PL:佐猫)
 吟遊詩人。故郷の村に両親と弟夫婦、隣村に妹夫婦が住んでいる。ガサードに住む祖父の弟ヒリフ老とは親交が深い。
PC2:ヒーニアス(PL:G)
 ラルハースに怨みを抱いている弓兵。
PC3:ガーダ(PL:蟻人)
 元ギュラニン党の暗殺者。今は逃亡の身で、薬商人を装っている。ガサードの有力商人ウィルソンと親しい。
PC4:ルヴェナー(PL:deep_one)
 ラルハースに国を滅ぼされた騎士。

※超長文、ネタバレ注意
ガーダの回想
 今より1年程前のこと。ガーダはウィルソンと会談している。ウィルソンは実質的なガサードの支配者であり、領主であるミルバーム家との対立が深い。
「実はミルバーム家がギュラニン党なる暗殺者を雇ったとの情報もあってね。こちらも強気な手段を考えようかと思っているのだよ」
 ギュラニン党から逃げているガーダは、自分の保身の為もあり、是非強攻策を講じるように薦めるのであった。

奇妙な夢と、滅びた村
 一方時間はシナリオ開始時へと進む。PCたち4人は水争いのあった国境線からガサード方面へと一緒に旅をしている。と、フリッツは白昼夢を見る。今まで歩いていた踏み固められただけの道とは違い、綺麗に舗装された街道が前へと続いている。そして、その先には見たこともないようなきらびやかな都が灯りに照らされていた。思わずふらふらと近寄っていったところで、他のPCに肩を掴まれ、我に返る。

 そして、PC達はフリッツの故郷である村へと来る。ところが人の気配は全くない。まず村長の家に向かったが、奥に踏み行っても、そこには人型に衣服が落ちているだけであった。服の中には灰のようなものが詰まっている。
 あわてて自分の家へ向かうフリッツ。そこには灯りも点けずに母親が椅子に座っていた。「おかえり。また新しい歌を聴かせておくれ」そんなふうに微笑む母親の下半身はもはや骨だらけであった。何があったと問うフリッツに「とっても幸せなのよ。ああ、でもあちらに行かなくては」と言い、そのままフリッツの母は灰となって崩れていく。隣で寝ていた父親も、同様にフリッツの目の前で灰となっていく。
 結局村の中には生存者は全くいなかった。しかしPCたちは村に立ちこめる不思議な匂いに気づき、その元を辿ると元来た方の街道脇に、魔法陣が刻まれているのを見つける。しかし、専門的な魔法知識を持ったものはおらず、とりあえず魔法陣を破壊するにとどまった。

逃げてきた少年、追う水魔
 PC達が今日の宿をどうするか話していると、村の方から少年の悲鳴と共に、馬車が飛び出してくる。「た、助けて下さい!」と叫ぶ少年の後ろから追うように水魔達があらわれた。
 水魔といえばラルハースの使い。というわけで、水魔たちはヒーニアスとルヴェナーによって、あっさりと処刑される。一方、フリッツは少年がガサードの領主の三男カシアスである事に気付く。
 カシアスの話によると、ガサードで反乱が起き、領主の館が襲撃されたとのこと。まだ社交界に出ておらず、顔の売れていないカシアスに領主の印章を託して逃されたことが分かる。
 カシアスは命を助けてくれたついでに、ガサードまで戻る護衛をして欲しいと言い出す。もちろん報酬は支払うとも。PCたちとしては、カシアスが街に戻るのとこのままどこかへ逃げるのと、どちらが幸せかは判断がつかない。しかし、成り行きということで連れて行く事にはなった。

夢の都、滅びの村
 翌日。道を行くとフリッツはまた白昼夢を見る。また、例のきらびやかな都である。しかし、先日見たときよりも近付いているように見える。そして、「汝、この街を手に入れたくはないか?」との声も聞こえてくる。ここでまた目を覚ますフリッツ。

 しばらくして、今度はフリッツの妹夫婦が住む村である。ここでも、不思議な匂いがしているのに気づき、慌てて村に入るPC達。しかし、村の中は至って平穏であった。妹の夫が気軽に声をかけてくる。フリッツは自分の村に起こった事を話し、今すぐに避難したほうがいいと訴える。にわかには信じがたい事だが、義兄の必死な様子に納得したのか、「ちょうど避難するのにちょうど良い場所がある。まずはそちらの様子を見てきます」と言って、妹婿は村の外へと向かった。その足が村の境界を踏み出た瞬間。
 またもやフリッツの目の前で、妹婿の足と腕が赤い霧となって散る。そのまま倒れ込んだ彼は、赤い霧となって消え去った。呆然とするPC達。
 どうやら、PCたち(馬も含む)は出入り自由だが、村に所属する生き物が村から出ようとすると消し飛ぶ事がわかった。それを村長や司祭に見せ、前の村の状況も話し、取りあえず村から出ないことを強調。
 そして、話を聞くと異変の前にラルハース方面から来た魔術師が、「水魔から村を守るため」と言って魔法陣を残していったこと。さらに彼がガサードに向かった事が分かった。
 村のライエル司祭から、ガサードにいるライエルの助祭への手紙を預かり、PC達は大急ぎでガサードへと向かった。

 その夜、フリッツは自分が見知らぬ都の中を歩いていることに気付く。いや、それは今まで散々外から眺めてきたあの都であった。街の様子に見覚えがない。しかし、そこでフリッツは死んだはずの家族たちに迎えられる。にこやかに食事を差し出してくる両親、弟夫婦、そして妹婿。「ここには哀しみなんてない。とても幸せに暮らせる夢のような都なのよ」しかし、フリッツはその食事に手をつけることができず、目が覚めた。

混乱の街ガサード
 ガサードに入る前にカシアスは変装させておいた。が、門番は物々しい格好をしている。さらに、街の中はややこしい事になっているので入らない方がいいという忠告までしてくれる。
 しかし入らないわけにもいかない。フリッツやガーダは何度も訪れていたのでフリーパス。ヒーニアスやルヴェナーはラルハースと戦っている戦士という事ではいる。カシアスはフリッツの連れという事にしておいた。
 ひとまず情報収集の為に知人であるヒリフ老人の家を訪ねる。が、遺跡発掘に老後の全てを賭けた彼には、街の情勢はどうでもいいらしい。とりあえずフリッツはカシアスの事をどこぞで作った子供のように思わせておくことにした。
 ここで、ヒリフ老は自慢の発掘品を見せてくれる。なんでも、ガサードの近くで新しい遺跡を見つけ、そこから面白いように色々出土するのだとか。その中の食器にフリッツは非常に見覚えがあった。それは昨夜夢の中
でみたものと同じ様式だった。
 さらにヒリフ老は嬉しそうに「王がかぶるべき宝冠」も見せてくれる。それは大人には少し小さいもので、ちょうどカシアスに合うぐらいのサイズであった。

 フリッツはとりあえず妹の住む村の司祭から預かった手紙を届ける為に、神殿へ向かおうとする。しかし、司祭の様子が少し変だったこともあり、封をされた中身が気になっている。躊躇していると、横からガーダが開けて中をみてしまう。そこには「施術完了」という言葉とともに、いくつかの地名が並べられていた。
 あけてしまったがとりあえず神殿に向かうフリッツ。一方、ガーダは昔から親交のあるウィルソンのところへと向かう。

 ライエル神殿で手紙を渡そうとするフリッツ。しかし、封が開けられている事に向こうが気付く。すると司祭リリシアはにっこりと微笑みを浮かべ、「お茶でもどうですか?」と奥の部屋へと誘う。なんとか逃れようとしても、囲まれてしまい、大人しく奥の部屋へ連れて行かれる。
 命も危なそうな雰囲気だったので、フリッツは自分の故郷や、妹の村で起きたことを全て伝え、それらを行った魔術師がここガサードにも向かっていることを伝える。その事は信じて貰えたようだが、フリッツは半ば軟禁状態にされてしまう。

 ガーダはウィルソンと接触する。どうやらウィルソンは1年前のガーダの助言に従い、どこかの勢力から強力を得て、領主一味を殺害した様子。今は残党狩りを行っているとのこと。
 ここでガーダは、別にカシアスには恩も何もないので、ウィルソンにその存在を教えてやる。もちろん、喜々としてカシアス狩りに出かけるウィルソンの部下達であった。

 一方。ヒーニアスとルヴェナーは傭兵や兵士達の集まる酒場などで情報を集めていた。どうやら領主一家殺害の際には水魔が使われたという噂があるらしい。あくまで噂だとして傭兵は口を濁すが、ヒーニアス達は水魔がカシアスを追っていたという事実を知っている。ウィルソンが水魔、その後ろのラルハースと手を結んだのではないかとの疑いを深める。
 さらに、領主の腹心の騎士達がどうやら街の地下に張り巡らされた遺跡に逃げ込んでいるらしいことも分かる。遺跡に関してはウィルソンの手のものは詳しくなく、捜索は難航しているとも。

 その後2人がヒリフ老の家に戻ってくると、何やら中から争う声が。「この子は儂の孫じゃー!」しかし、状況からしてウィルソンの手のものがカシアスを攫いに来たとしか思えない。ヒーニアスが家の前で騒ぎを起こして陽動し、その隙にルヴェナーがヒリフ老とカシアスを逃すという作戦を立てる。
 兵士達の乗っていた馬たちを屋根の上から狙撃し、出て来た兵をさらに狙撃するヒーニアス。このダメージがなんと叙事詩に残る一撃!頭をぶち割られて倒れる兵士。どこから、どんな方法で攻撃されたのかも分からず、残りの兵士は大混乱。その隙にルヴェナーはなんなくヒリフ老とカシアスを助け出すことができた。

 フリッツは、一度家に戻って事情を説明したいとライエル神殿の人間に懇願する。すると、監視付きの護衛をつけての外出が許される。しかし、ヒリフ老の家にいくと、そこには兵士の死体が。状況が分からず混乱するフリッツ。しかし、ヒリフ老が大切そうにしていた宝冠が残されていたことから、ヒリフ老が自分の意志で出て行ったのではなく、連れ去られたのだと思いこむ。
 その帰り道、落ち込むフリッツ(護衛付き)にガーダが声をかけてくる。ガーダがウィルソンと付き合いがあった事を思い出し、ヒリフ邸の惨事の原因を理解するフリッツ。さらに、今自分が軟禁状態にある原因を作った(手紙を最初に開けた)のもガーダであったので、彼を巻き沿いにしようとする。「あれが、手紙を開けてしまった手癖の悪い連れです!」というわけで、ガーダもライエル神殿に連れて行かれる事になった。

地下の遺跡で
 ウィルソンの手のものから逃げ出したヒーニアスとルヴェナー、ヒリフ老人、そしてカシアスであったが、街の中はどこもウィルソンの目でいっぱいである。ここは、領主の腹心の騎士が逃れているという地下へ潜ることにする。幸い、ヒリフ老は街の地下の遺跡にも詳しく、カシアスを無事騎士達の元へと送り届ける事ができる。
 彼らは数年地下に潜伏し続けられるだけの食料を蓄えていた。さらにカシアスという旗頭を手に入れ、長期戦で地上のウィルソン達との戦いに備える事になった。
 ここで、カシアスはヒーニアスとルヴェナーに自分に協力して欲しいと言う。しかし、2人の答えは同じだった。「水魔やラルハースと戦う為の力ならばお貸ししましょう」そしてウィルソンがラルハースと手を組んでいるのはもはや濃厚。2人はカシアスに戦いの手段を教えるのだった。

ライエル神殿
 フリッツとガーダはさらに詳しい取り調べを受ける。というよりは、話さなければ命がなさそうな雰囲気である。ガーダは領主の息子であるカシアスや、それをウィルソンが攫ったであろう事を暴露。フリッツは、そのウィルソンが水魔や、はてはラルハースと手を結んでいる可能性が高いという事を主張した。
 それを聞いてリリシアは、ウィルソンがラルハースと手を組んだ事の証言をしてくれるなら、身の安全を保証するという。どうやら、ライエル神殿としては、現世の権力争い自体には興味がないが、できるだけ有力者に恩を売って、神殿勢力を伸ばしたい様子。
 というわけで、ウィルソンの勢力を牽制する裏工作を色々と行ったりしてくれるようにはなったものの、PC2人はやはり軟禁されてしまうのだった。

 軟禁生活も数日が過ぎた。フリッツは外の状況を知りたがるが何も教えては貰えない。そんな中、ガーダだけが呼び出される。
 待っていたのはリリシア助祭。「あなたの経歴について調べさせてもらいました」と、ギュラニン党の過去を匂わせてくるリリシア。
「いや、昔はお菓子屋なんかをやってましたがねえ、今はそのお菓子屋が大嫌いなんすわ。でも、お菓子を差し入れる事自体はまだ好きですぜ」
「ならば、ウィルソンにお菓子を差し入れてもらいたいのです」

 リリシア助祭が持ちかけてきたのは、ライエル神殿の裏の暗殺者として生きないかという事。そのかわり、ギュラニン党の追っ手などからの保護を保証するとのこと。さらに、ガーダの表の顔である商人の取引相手としても、優遇するとのこと。
 断れば、もちろんこの場で命を絶たれるだろう。元々ウィルソンにも大して恩がある分けでもなし、ガーダは答えた。
「ええ、喜んでやらしてもらいますよ。なんならライエルに入信しましょう」
 こうして、ガーダの入信の儀が行われる事になった。その時、リリシアが1つの木の実を差し出してくる。ガーダの知識によると、そんな木の実の話は聞いたことがない。危険を感じて、食べたふりだけをするガーダ。しかし、すぐに「食べていませんね?」と見破られてしまう。仕方なしに、木の実を食べるガーダ。
「ちなみに、この実を食べるとどうなるんですか?」
「私たちの命令に逆らう事ができなくなります。さあ、ウィルソン暗殺に向かいなさい」
「嫌だ! …とか言ってみたりして」
 その瞬間ガーダの全身に激痛が走る。胃に落ちた木の実から根が伸び、体内に張り巡らされていく。しばらくして痛みと根の成長が治まる。
 リリシアはにっこりと微笑みながら言う。「死ぬ程ではありませんが、我慢できる痛みでもないでしょう。これで、言うことを聞く気になりましたか?」
 あとはもう、うなずく事しかできないガーダだった。

その頃まちでは
 街では、ウィルソンによって一人の魔術師が捕らえられた。しかし、しばらくしてその魔術師が今度は護衛を引き連れて街の各地でなにやら魔法陣を作っているらしい。
 地下に潜伏中のヒーニアスとルヴェナーの元にもその情報がもたらされる。村の事を考えると、非常に危険な状態だが、魔術師の護衛も魔法陣の監視も強固で迂闊に攻撃することはできない。
 しかし、それと前後してウィルソンがラルハースと手を組んだという噂が流れ始める。(ライエル神殿の工作)それによって、ウィルソンの立場はどんどん苦しくなっていく。
 ヒーニアスとルヴェナーは街を取り戻すには魔術師の儀式を妨害しなければならないと主張し、潜伏している遺跡に近い場所で襲撃する事となった。

 フリッツは、ガーダが去ってからもずっと軟禁されていた。彼は相変わらず、夢の中で死者の都へと誘われていた。そこには、いつしか妹の姿も加わっていた。いっそ、この都へ残ろうかとも考えたフリッツだったが、まだヒリフ老の安否が確認できてない事が気がかりで、なんとか心を現実世界に止めていた。

終結
 ガーダはなんなくウィルソンの私室を訪ねていた。ラルハースや魔術師について尋ねると、「毒には毒と思ってラルハースを呼び込んだが、さらに強大な敵があらわれた。これに対処するにはもっと強力な毒が必要だ」
とのこと。どうやら、例の魔術師の儀式でライエル神殿と地下遺跡を壊滅させるつもりだったようである。
「でも、もうそんなことを気にする必要はない。何故なら、あんたはもう死ぬからだ」そう言って、ガーダはウィルソンの首を掻き斬り、密かに逃げ出した。

 ライエル神殿では、魔術師及び魔法陣への攻撃が行われる事になった。フリッツは家族の仇である魔術師をこの手で殺したい。それが叶わなくても最後は見届けたいと主張し、作戦に参加することになった。
 ライエル神殿の動きと同調して、地下からも旧領主派の一団が地上へと現れた。駆逐されていく魔法陣。魔術師は自分の身を感じたのか逃げ出す。しかし、その先にはライエル神殿の一同がいた。
 仇の姿を見つけて、フリッツは憎しみを込めて剣を突き出す。剣に貫かれ、魔術師は絶命するが、その懐から1つの玉が転がり落ちる。それは、中に夢の都市のレプリカを封じ込めたものだった。これを手にすれば、自分も夢の都市に行って安楽を得られる。そんな誘惑にフリッツは駆られるが、これがそもそもの元凶だとして、剣を振り下ろして破壊する。

それぞれの結末
 ガサードの街は再びミルバーム家のものとなった。幼き領主カシアスの周りには、対ラルハースを強く唱えるヒーニアスとルヴェナーの姿が、さらには今回の一件で勢力を伸ばしたライエル司祭の姿もあった。
 そして、ライエル神殿では影の仕事をするガーダの姿が…。

 フリッツは、今回のような悲劇が二度と起こらないよう、哀しい歌にして伝えるべく、各地を放浪していた。しかし、彼にはもう生きる目的もほとんどない。ぬけがらのようなものだった。
 ふと、彼の懐から宝冠が転がり落ちる。それはいつぞやヒリフ老のところで手に入れたものだ。宝冠がフリッツに語りかけてくる。
「汝は、力が、王国が欲しくはないか?」
 フリッツは答える。
「あのような悲劇を起こす力などいらない」
「そうか…汝の絶望は我にとって心地よい。汝がいつか我の力を欲する時を待っている」
セッションレポート > 深淵 | comments (1)

Comments

GMやったK | 2005/06/25 10:23
見直すと荒い流れで、赤面する限りです。
ヒロイックな方向性のを2つほど作っていますので、そのうちもっていきますね・・・。

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