2001年度後期後半キャンペーン

「StarlightRhapsody」



幕間



星系国家連合、安全保障理事会臨時会議

「――以上より、私どもはステラフォースの派遣を要請致します」

 答弁を終えたのは、ミューズ星系のエンクルマ大統領であった。今回、彼の治める惑星では、メッテルニッヒの配下の襲撃を受け、大学を破壊されるだけにとどまらず、多くの死傷者を出し、そしてエルドラド文明研究の権威であるオックスフォード教授まで誘拐されたのだ。
 また、ミスリル星系のファーロング大統領など、エルドラド文明の遺跡を有する各星系の代表者たちも同様の憂慮を持っていた。すでに襲撃を受けた星系も、まだ今は受けていない星系も、メッテルニッヒの侵攻をいつ受けるかわかならいのだ。
「しかし、ステラフォースを出すとなると……」
 直接、メッテルニッヒの驚異を受けていない星系の元首は苦言を呈す。当然、自国に被害が及んでいないことに関わりたくない。軍事行動にはいつの世も金がかかる。所詮、他人事なのだ。

「だが、前例がないわけではない」
 きな臭さが漂うかと思われたそのとき、一人の男がその一言で断ち切った。その男は、安全保障理事会理事国であるシリウス星系のカストロ元首である。
「以然、私の治める星系においても宙賊による類似事件が起こっている。その首謀者であるポチョムキン一味を壊滅したシリウス沖会戦をお忘れではないかな」
 誰かが息をのんだ。前例はあるのだ。

 そして投票が行われた。理事国による棄権票はなし。メッテルニッヒに対してステラフォースを派遣するという懸案は圧倒的多数の賛成票により可決された。



太乙

「戻ったか〈貪狼〉よ」
「はっ、ただいま」
 ひざまずくものにそれを見下ろすもの。
「詳細はすでに〈破軍〉より聞いておる」
「申し訳ございません。私がいながら、拉致及び逃亡を許してしまい」
「あの状況なら、さらに人員を送るべきであった。儂の判断ミスだ」
 上段の老人は、告げる。
「改めて命じる。対メッテルニッヒとしてお主らの派遣を決定した」
「私以外には?」
「おぬしを含めた七人を全てをだ」
「思い切ったことをなされるのですね」
 柳眉を寄せる〈貪狼〉に対して老人はしたりという。
「今回は投入戦力を惜しみはしない。奴は既にあの“力”を手に入れていることが考えられる」
「ということは、〈破軍〉はもう行動に移っているということですね」
「うむ。それに、ステラフォースを先鋒として使える状態にした。お膳立てはおこなった。思う存分腕を振るうがよい」
「ありがたきお言葉」
「世界の安定には奴は不要だ。全ては我ら〈太乙〉のために」
「朗報をお届けいたします」
「期待しているぞ」
 一礼をして〈貪狼〉は闇にとけ込んでいった。



宙賊皇帝旗艦

「さあ、読んでもらおうか、オックスフォード教授」
 薄暗い部屋の中、電灯だけがわずかに明かりを投げかける。
 フォッカーはエルドラド文明の文字が書かれた写真を教授の目の前に持っていく。教授は抗うことができない。何故なら、彼はその身を拘束され、身動きすらできないからだ。
「何故君たちはこんなことをするのだ」
「私が訊ねているのはこの文章の意味だ。それ以外のことを喋る必要はないのだ」
 フォッカーは、一本の注射器を取り出す。それを教授の首筋へと持っていく。
「き、君っ! や、やめてくれっ!」
 だが、彼はその手を止めることはなかった。抗うことさえ許されず、教授はわずかに痙攣した後、ぐったりとする。その瞳は虚空を見つけている。
「時間がないのだ。素直に話そうとしない方が悪いのだ」

 フォッカーが再び問いだそうとしたとき、不意に扉が開き、明かりが彼の顔を照らす。
「首尾はどうだ」
「これは、提督」
 部屋に現れたのはメッテルニッヒであった。
「それでいい。一番手っ取り早い」
 そう言って、メッテルニッヒは教授にエルドラド文明の文字を見せる。
「これは余等しか知らない遺跡に書かれてあった碑文だ。なんと書かれているのだ」
 教授は訥々と語り始めた。

我らはおこなうべきではなかった
得るべきではなかった
3つの〈邪眼〉が集いし時 〈地獄の扉〉は開かれた
地獄の業火は大地を焼き尽くした
かの〈扉〉を開きしものを残して
命有りしものは封印し 〈番人〉として眠る
二度と開くことなきよう

 その言葉を聞くと、メッテルニッヒは高々と笑った。
「やはり余の考えは当たっていた。あの遺跡にあった武器からして、この力を手に入れれば、余こそが人類の支配者となるのだ、いや、異星人どもも余の足下にひざまずくのだ」
「フォッカーよ。まだこの男の頭脳は必要だ。丁重にもてなしておけ」
「アイ、サー」

 二人は教授を残してその場を出る。しかし、碑文には続きがあった。

我らはささやきに応じた自らの過ちを恨む
……汝は我らを破滅へといざなうのか
星明かりをその道しるべとして……
〈悪しき瞳〉が示す星へと

 その呟きを耳にしたものはいなかった。



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