「無茶なことはやめるんだ、ワーレック」
空には月はなく、星明かりが部屋の中を仄かに照らしている。その光の中に佇むワーレックと呼ばれた男――彼の心はすでに決まっていた。
「これを見つけてしまったために、俺は、奴らに狙われるしかない」
彼の見下ろす視線の先には、手に握られた筒状の物体がある。
「それなら元のあったところに返せばいい」
しかし、ワーレックは首を横に振る。
「無駄だ、この秘密を知り、その使用法を会得した以上、奴らが俺を生かしておくはずがない。……それが奴らのやり口だ」
「なんてことだ……」
男は思わず天を仰ぐ。大男といってもいい彼の体が、心なしか小さく見えた。
ワーレックは真摯な眼差しで対する男の目を見る。男はワーレックの瞳に揺るぎない決意の力を感じ取っていた。そして同時に悲壮な決意の色でもあった。
「友と見込みおまえに頼む。あいつが一人前になるまで、俺の代わりにあいつを助けてやってくれ。俺はあいつのために“紅い蛇”をしとめに行く」
「危険だ! やめろっ!」
男は両腕を伸ばし危険だと止める。だが、ワーレックは制止を振り切り、一人、闇夜に飛び出していった。
その時少年は見ていた。そしていつの間にかその光景は記憶の彼方に押しやられていた。いや、忘れようとしていたのかもしれない。運命がいざなうその日まで、星明かりが照らす、深遠なる宇宙へと……。