2001年度後期後半キャンペーン

「StarlightRhapsody」



第1話 円舞曲“スクルド”〜運命の歯車〜



アッシタリュド宇宙商会

 フリーデッド・アシュタリュド、通称フリードは、アッシタリュド宇宙商会の若き社長。先代ワーレックが残した船フェーニクス号と会社を引き継いだ――まではよかったが、今ひとつうだつが上がらない。そんな彼を後目に、優秀な社員は引き抜かれ、残ったものといえば、先代との義で残ってくれた会計および交渉を担うルセール・デュ・ラシュロンと、元密航者の風水師アルジェント司馬。先代の友人にして“連帯保証人”の腕利きメカニック、ハワード・E・ニシカワが応援に駆けつけ、さらに腕はいいが素性が不明の航海士ソルマを雇うことで、新生アッシタリュド宇宙商会が誕生。だが、それは膨大な借金を抱えながらの再出発であった。



舞い込んだ依頼

 仲買人として宇宙貿易商を営むオーウェン氏に頼まれ、トリチウム貯蔵合金を運送のため、ミスリル星系にやってきたフリード一行。ここミスリル星系は奇しくも、宇宙考古学好きの司馬にはたまらないエルドラド文明の遺跡が残る地であった。

 ドックに入ろうとして船を傷つけ、施設も壊し、新たな借金を背負ったフリード社長は、宇宙港で女性に助けを求められる。彼女の後ろにはごろつきが5人続く。美形の彼女にごろつきがいちゃもんをつけてきて云々のよくある話。フリードは話し合いで決着を求めるも、彼らはその気になれない。しびれを切らしてごろつきたちはドスを抜いてかかってくる。ソルマの“力”、ニシカワのスパナ、ラシュロンのスタナー、そして司馬の鉄笛で簡単に一蹴、格の違いを見せつける。ところが何故かフリードは長ドスの前に苦戦。危ないところを司馬に救われる。逃げるごろつきを捕まえて、問いつめようとしたその時、「お見事、あなた達に決めたわ」という声がかかる。その主は、さっき助けた女性であった。

 彼女の名は陳麗芳、著名ではないがジャーナリストである。彼女は、新しく見つかったエルドラド文明の遺跡を取材に行くので、護衛を捜していたのだった。そのためにごろつきを吹きかけ、相手の力量を探っていたのだと。彼女は護衛を依頼したいというのでラシュロンが交渉にあたる。彼女が言うに、取材の理由は調査のため遠征隊を出したエルドラド文明研究の権威ウイリアム・オックスフォード博士に遺跡捏造疑惑があるのでその調査であると。そもそも、何故護衛が必要なのか? その理由は宇宙海賊がその遺跡付近にいるという情報があるためだ。それも相手が悪い。ラシュロンは元ザルメック星系宇宙軍提督にして史上最兇の宙賊、アドルファス・メッテルニッヒが遺跡に興味を示して配下を送っていることを知っていた。その点を伏せて交渉してくる彼女に対して、巧みなラシュロンの交渉術により、自分たちに有利な条件をのませることに成功する。彼女の提示額の1.4倍の時給、燃料代は彼女持ち、成功報酬倍額、賠償責任なしの条件を勝ち取ったのだ。



ソルマ暗躍する

 出発までの時間はあった。航路の確認をすると称したソルマは、“ある”ところに勝手に秘匿性の高いニュートリノで通信を送っていた。「係長」宛としてラシュロンと陳の素性を探れという文面。陳との交渉中に彼女とラシュロンを隠し撮りするといった怪しい振る舞いの件もあり、不審な行動に気づいたラシュロンはその内容を傍受していた。ラシュロンは露払いとして、ソルマが一人でいる時を狙って彼を問いつめる。口を割ろうとしないソルマに対して、ラシュロンは「お互いに余計なことはしないでおこう。敵同士ではない」と和解を提案する。ラシュロンの提示する自身の情報を渡されたソルマは降参し、互いの正体を確認しあい、互いに組めることを知る。ここに謎の関係が成立した。



救難信号

 そして主発の日。船は無事に出向する。目的地は小惑星帯の中。その宙域近くにジャンプアウトしたフェーニクス号は、救難信号を受信した。救助に向かい、救命ポッドを発見する。通信を送っても応答もない。外装はかなり痛んでいる。なんとか遠征隊の出した船である「ビーグル号」の名を確認できる程度。司馬が警戒しつつ回収してハッチを開けると、血のにおいがあふれ出した。中には血だらけの男がアタッシュケースを抱えたままうずくまっていた。かれは、アタッシュケースを司馬に託す、「これを教授に渡してくれ」と。それが最後の言葉となり、彼は事切れる。

 彼の持っていた手帳から、オックスフォード博士の助手アダムス・ステインであることが判明。ラシュロンがアタッシュケースの鍵をはずし、中を確認すると、握りこぶし大の赤いルビーのような宝石が入っていた。人類がまだ見たこともない種類のようであった。また、彼の手帳には、「神像」という言葉も書かれていた。考えられることは、メッテルニッヒの手のものがビーグル号を襲った、ということである。このまま遺跡に向かうか、それとも、アタッシュケースを届けに引き返すか、という二つの選択し。どちらが危険なのか分かり切っている。陳は危険を犯してでも行くのがジャーナリストだと主張する。引き返そうというフリードと、遺跡に行くべきだと唱える司馬との意見の対立。長引く兆しを示したところでニシカワの一喝。陳は危険を承知の上であなた方の腕を信じて依頼したのだという。それで行かなかったらトラコンの恥だという司馬の小言。フリードは決意する、依頼を果たすため遺跡に向かうと。なお、ステイン助手は宇宙葬で弔われた。



紅の彗星

 遺跡へは小惑星がちょうどいい遮蔽となった。船体を小惑星でこすることもあったが、宙賊に見つかることなく遺跡に接近する。メインスクリーンに映し出される450m級戦略攻撃用重巡洋艦2隻と無惨なビーグル号の残骸。様子をうかがっていると、遺跡の方から小爆発がおこる。そして傍受した通信には「戦術的撤退だ」「戦列を組み直す」そして「〈太乙〉の奴らめ」といった言葉が聞き取れる。〈太乙〉は、影の政府とも言われ恐れられている謎の組織。この「太乙」の部分だけを伏せ、状況を伝えるソルマとラシュロン。そして重巡洋艦は小惑星から離脱を開始する。その行き先を確認し、ここぞとばかりにフェーニクス号は小惑星に接近する。

 このまますぐに着陸しようとしたところ、まだシャトルが残っていた。見たところ損傷もない。だが、動きもない。警戒を強めるフリードたちだが、大切な遺跡が破壊されると陳ははやる気持ちを抑えられない。依頼人に応えるため、5分だけとの約束でシャトルと調べるフリード、ソルマ、ラシュロン。陳のガードには残りの二人が付く。シャトルと調べるとってハッチを開けようとするが、開錠できない。もどかしげに見守っていた司馬は、何者かが自分たちに向けて発砲してきたのに気づき、警告を発し岩の陰に隠れる。ニシカワは運良く懐のスパナに被弾したことでかろうじて助かる。それと同時に「シャトルから離れろ」との声。遺跡からは幾つものアタッシュケースを抱え、重武装した宙賊の一団が現れた。その中央には紅の戦闘用宇宙服の男。ラシュロンらは思い出す、メッテルニッヒの右腕“紅の彗星”の異名を持つエフレム・フォッカー元大佐の存在を。彼らは、シャトルから離れたフリードらの前をレーザーライフルの銃口を向けたまま悠然と歩き乗り込む。そして「悪いことはいわん、命が欲しければ早くこの宙域から離れることだな」との言葉を残して離陸する。



託された遺志

 立ち去るフォッカーを見送り、フリードたちは遺跡に突入する。遺跡の入り口には見かけぬデザインの宇宙服を着た死体を目にする。さきほどの宙賊のものとも違う。彼らに構っている余裕もなく、先へと進む。

 遺跡の通路にはエルドラド文明の文字らしき装飾とレリーフが施されている。さらに進むと扉を破壊した跡があった。またそのそばにも先ほどと同じ謎の宇宙服を着た死体が。扉の向こうに目を凝らすと、奧には宙賊の死体もある。ここで何らかの争いがあったのは確かだが、今となっては真偽を確かめることはできない。思い切って、フリードたちは扉の奥へと進む。

 そこは、大きな広間になっていた。壁面に穿たれた無数の銃痕から、宙賊たちに荒らされた後のようであった。陳はさらに奥へと足を進める。と、赤い仄かな光が目にはいる。光のある方向に進むと、そこには奇妙な像があった。大きさはおよそ人の2倍。6本の脚のようなものが生えた円筒状の柱のような姿である。上部には赤い宝石が付いている。これがステイン助手のメモにあった神像であった。光はこの宝石から漏れていたのだ。彼女は接近して写真を撮る、無我夢中でシャッターを切り……。それが彼女に悲劇をもたらすことになると知らずに。

 その時、突然、それは動き出した。赤い収束した光を解き放つ。出来事に反応しきれず、立ちすくむ陳。光はレーザーガン以上の破壊力を持っていた。かすっただけで岩でできた壁が蒸発する。フリードたちは撤退を決め、扉の方へ走る。司馬とラシュロンが陳を抱えて逃げるが、無情にも灼熱の破壊光線は真ん中を打ち抜いた。そこにいたのは、陳だった。一瞬にして彼女の体は蒸発し、残ったのは彼女の魂であったカメラのみ。必死の思いでラシュロンがそのカメラを拾い上げ、フリードたちは、遺跡から退却した。

 フェーニクス号が離陸した刹那、2条の光の矢が小惑星に突き刺さる。戦略攻撃用重巡洋艦からの砲撃である。攻撃がやんだときには、小惑星は跡形もなく虚空に消えていた。

 フリードたちの元に残ったのは莫大な借金と陳の遺品、そしてステイン助手から託された赤い宝石。フリードたちは、ステイン助手の遺志を果たすため、針路をオックスフォード博士のもとへ向けるのであった。



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