Gear Krieg ギア・クリーク紹介

明之介


われわれは断じてくじけない。最後まで断固として戦い抜く。敵の上陸地点で、野で、街頭で、丘でわれわれは戦うのだ。断じて降伏しないであろう。
ウインストン・チャーチル from 伝記チャーチル(足沢良子著)
10年もすれば、他国の植民地は価値がなくなるだろう。そして何よりも、平和という最大の賜物を得ることができるのだ。
アドルフ・ヒトラー

○ギア・クリーク(Gear Krieg)とは

 ギア・クリークは2000年に発売された第2次世界大戦を舞台とした架空戦記物RPGです。ひとことで言うと、「第2次世界大戦前夜、ナチスドイツは二足歩行兵器を開発した!」

 作ったのはカナダのRPGメーカー Dream Pod 9 です。
 このメーカーはこれまで気候だけでなく人間たちも乾いた架空の惑星テラ・ノヴァを舞台とした、高橋良輔系といわれるロボットRPG「ヘビーギア Heavy Gear」、それぞれの惑星やコロニーに植民の進んだ太陽系を舞台としたサンライズ富野系っぽい巨大ロボットRPG「ジョビアン・クロニクル Jovian Chronicles」、未来ホロコーストファンタジーRPG「トライブ8 Tribe 8」を作っています。
 他にもかつてスーパーロボット大戦ができるRPG「メクトン」のサプリメントを作っていたとか「プロジェクトA子RPG」なんていうものを作っていたという忘れたい過去、じゃなくてオタク界における輝かしい経歴を持っています。

 そして、2000年彼らはこのメーカー3作目の二足歩行ロボットものRPG、ギア・クリークを送り出しました。
 毛色の違うロボット物RPGをなんと3つも作っている Dream Pod 9 は RPG業界でも随一のアニメロボット通メーカーというのが私の評価です。このこだわりには脱帽させられます。
 第2次世界大戦+ロボットというネタは日本でも既にあり、アニメ「機神兵団」とかネットゲーム「鋼鉄の虹」とかを思い出す人もいるでしょう。他にもあったかもしれません。知っていたら教えてください。

 このゲームの特徴はヘクスマップによるタクティカルコンバットゲームとRPGの二本立てというところでしょう。
 そのようなゲームには「バトルテック」+「メックウォーリアー」がありました。彼らのヘビーギア、ジョビアン・クロニクルもこのスタイルで、Dream Pod 9 では定番となっています。

 この形式の目的はロボット戦闘、第2次大戦ものRPGのどちらを重視してゲームをおこなうかをプレイヤーが選択できるというところにあります。
 ルールブックはタクティカルコンバットルールブックとRPGルールブックの2冊が用意されており、プレイヤーはRPGメインでやるか、ヘックスボードゲームメインでやるかを選択することができます。
 そしてそれは基本的に同じルールになっているため、2種類を簡単に場面場面で柔軟に選択することができるわけです。

 ギア・クリークはルールブックとしては「パルプヒーロー」ものRPGということになっています。ノリとしてはインディジョーンズとかアニメ調といったところかな。
 まあ、架空のテクノロジーがあってマッドサイエンティストなんかもOK。というRPGなので、リアルというよりはちょっと荒唐無稽な活劇風になるでしょう。
「ギア・アンティーク」などに代表される「スチームパンク」というジャンルがありますが、このRPGはいわばその雰囲気をミリタリーものでやる、いわば「ミリタリーパンク」という感じですね。もしくは小林源文のようなノリもまったくもってそれっぽいかな。まあ、個人的には映画「カサブランカ」みたいなのもよいと思っています。

○ギア(Gear)すなわちウォーカー(Walker)

 ギアは二足歩行兵器の総称です。このゲームにおいては「ウォーカー」、もしくは「アームド・ウォーカー」と呼んでいます。二足歩行兵器を開発しているのは連合国のイギリス、アメリカ、枢軸国のドイツ、日本です。
 基本ルールブックではその他、ウォーカーを持っていませんがソ連が選べます。PCは基本的にこのいずれかの勢力に所属することになるでしょう。
 実際、二足歩行ロボット(英語でアームド・ウォーカー、ドイツ語でパンツァー・ケンプファー、日本語でオシモイ)を始め、試作テクノロジーやオーバーテクノロジーがいろいろ開発されていたり、現実と架空がないまぜになった舞台が設定されています。もちろん現実にある兵器もちゃんと存在します。

注)オシモイは「heavy feet」という意味だ。と書いてあるのでおそらく「足重(アシオモ)」と言いたいんだろうなあ。日本語はちゃんと調べてくれい。(泣)

 ウォーカーは基本的に操縦者と射手の2人乗りで、二足歩行するモードと、膝を突いたような形でキャタピラと車輪で走行するモードの2形態に変形できます。このデザインがなかなかそれっぽくて秀逸。
 ウォーカーも各国ごとに微妙に違っていて特徴を出しています。日本のウォーカーだけには最後弾切れになったとき、突撃「バンザイアタック」ができるように槍が装備されているのは笑えます。

○ルール

 Dream Pod 9 は出版しているすべてのゲームで「シルエットシステム」という同じ基本ルール体系を採用しています。D6をいくつか振り一番大きい目を採用する、というのが基本的な判定法です。
 振る数は以下で説明しますが、基本的に6が2個以上出た場合は余分の6の数だけ目に加えたものが最終的な達成値となります。例えば、ダイス目が 1,6,4,6,6 の場合は達成値は8です。それによって難易度以上が出ると成功となります。

 技能判定では技能レベルと同じ数のダイスを振り、その値に技能ごとに対応する能力値を加えます。能力値判定では2個のダイスを振り、その値に能力値を加えます。

 ダメージの決め方は以下のようなものとなっています。攻撃と防御がダイスを振り合います。「攻撃側の達成値−防御側の達成値」を成功度といいます。成功度が1以上なら攻撃が命中します。
 ダメージは、[成功度]×[武器のダメージ倍数値]です。これを3つの負傷値(軽傷値、重傷値、死亡値)と比較してダメージを決めます。

 一般にロボットものは人間スケールとロボットスケールの2種類があり、ルールが煩雑になりがちです。このシルエットシステムはいわゆるタクティカルボードゲーム的なルールとRPGルールの中間のルールという感じです。
 RPGルールとしては少々味気ないもののタクティカルルールと併用してもそれほど処理が煩雑にならず、ロボットスケールと人間スケールのコンバートが簡単であるという点に特徴があります。
 ダイスの目によって一撃で死亡する可能性があるかなり死にやすいシステムというのも特徴でしょう。

 一方、スクリプト・イミュニティ(Script Immunity) という選択ルールがあります。これはキャラクターが死亡したなどの致命的な状況を避ける一種のヒーローポイントのようなものです。

 敵のダイス目がキャラにとって致命的な結果になったとき、難易度3で現在のスクリプト・イミュニティと同じ数のサイコロを振ります。成功するとその致命的な目はなかったことにできます。
 判定の成否に関わらずスクリプト・イミュニティは1下がります。このルールを使うことによって、より活劇的なシナリオをおこなうことができるとされています。このあたりは元のシルエットシステムにルールを追加したものの、 成功しているかは微妙だと思います。ちなみに、ロボットものRPGとしてはより新しいボトムズRPGのルールがもっとも洗練されているのではないかと私は思っています。

○世界

 ギアクリークの世界は現実とちょっとだけ違ったパラレルワールドです。世界は現実の世界と少しだけ違った、少しだけ進んだテクノロジーを知っているわけです。

 二足歩行マシンのアイデアはもともとドイツのフリードリッヒ・ゴーブル教授が1913年に考案しました。1920年代になってアメリカのウォルター・クリスティーという発明家がシステムを改良し実用的なウォーカーを作りました。
 そのウォーカーは主に平和利用を目的としてドイツ・ワイマール共和国に売却されました。しかし、1930年代ナチスの時代になってドイツはその軍事利用を研究し始めました。
 そしてドイツのエーリッヒ・ラングハウザー博士は、1938年に二足歩行兵器「パンツァー・ケンプファー」を完成させたのです。
 日本はドイツに呼応してウォーカーの開発を始めます。これを知った英国や米国はウォーカーの開発をより促進させていき、第2次世界大戦は新兵器、ウォーカーの戦いとなります。

 基本ルールブックでは1941年がシナリオをおこなうに適当な年代として設定されています。この年、既にフランスを占領したドイツはソ連に侵攻、モスクワまで迫っています。
 日本は真珠湾を攻撃しアメリカと戦争状態に入りました。1941年はいわば第2次世界大戦の最初の転換期にあたる時期だといえるでしょう。
 このような状況の中でPCたちは流れを大きく動かす行動をすることになるでしょう。そしてそれ以降の世界は現実の歴史と違ったものになるに違いありません。それはまさに架空歴史ものの醍醐味といえます。

 RPGルールブックにあるキャンペーンプロットの例を紹介しましょう。あるイギリスの財閥がイギリスひいては世界のためになる大きなビジョンを持っていました。
 そして彼の信念によればその方法はナチスドイツへの協力でした。彼にとって大きな目的のためには小さいと思える犠牲は仕方ないことなのです。
 PCたちはその財閥の野望をくじくためにイギリス植民地を中心にヨーロッパ、北アメリカ、アジア、アフリカ、オーストラリアをまたにかけた冒険を繰り広げることになります。

 マスタースクリーン附属シナリオはエジプト、カイロを舞台に連合国側のエージェントとなってナチスドイツの陰謀を阻止する。といったもの。
 シナリオははっきりいってあんまり大したことないんですが「第2次大戦時のカイロ」というのはなかなか面白いセッティングです。

 各国の部隊は国ごとに違った特徴がつけられています。ゲーム的にはその特徴を示すために部隊にそれぞれ違ったダイス修正がつけられているのが面白いところです。
 ドイツ軍は練度や士気が高く歩兵、ウォーカー、装備どれを取っても他国にひけを取りません。
 英国軍がドイツ軍に次ぐ力を持っています。英国はドイツと比べて機械化部隊より歩兵を重視しているのが特徴です。
 日本軍は士気の高い強力な歩兵を持っていますが、ウォーカーは貧弱です。バンザイチャージという敵と刺し違えるオプションが取れます。
 ソ連は錬度は低く装備も最弱ですが、防御に有利な修正を持ちます。
 アメリカも錬度は低いですが、装備は他国より充実しています。

○ルールブックによる
タクティカルシナリオセッティング例

・1940年5月21日フランス アラスの戦い

イギリスはフランスにおける劣勢を打開する反攻作戦を立案した。アラスにおいて独英両軍が激突する。しかしロンメルは周到な作戦を用意していた。

・1940年5月25日フランス ダンケルク撤退戦

フランスでの英軍の敗北はもはや決定的となった。イギリスはダンケルク港から撤退を始める。しかし背後には独軍が迫っていた。

・1941年4月北アフリカ 砂漠の狐

ロンメルが到着したとき、既に伊軍は英軍によって壊走していた。砂漠の狐は反撃のためにはまず情報収集が必要であると考えた。
ところが重要な情報は砂漠の真中に1機の飛行機とともに墜落していた。その頃、イギリスもその情報をかぎつけていた。

・1941年5月北アフリカ 補給と需要

北アフリカ戦線は一進一退の膠着状態となり補給は尽きかけていた。事態を打開するため独軍は英軍の貯蔵庫を襲撃する計画を立案した。

・1941年12月22日フィリピン 血のルソン

アメリカに戦線布告した日本はフィリピン攻略のための主力を上陸させた。南海の密林で日本軍と米軍が激突する。

・1941年11月2日モスクワ モスクワ攻防戦

独軍は遂にモスクワに接近した。だがソ連レジスタンスの抵抗と冬将軍がドイツを苦しめていた。

○Luft Krieg

航空機をフューチャーしたサプリメントです。なかなか面白い航空機が紹介されていたり。そこでのシナリオセッティング例。

・1940年9月18日イギリス南部 イギリス本土空襲

フランスから撤退したが英軍の空軍はいまだ健在だった。ドイツにとって戦争を有利に進めるには制空権を得る必要があった。ドイツ航空部隊はイギリス航空基地を急襲する。

・1941年6月23日ロシア バルバロッサ作戦

イギリスをフランスから追い落したドイツは不可侵条約を破って突如ソ連に侵攻した。ドイツ機甲部隊の前にソ連軍は撤退戦を余儀なくされる。

・1941年5月21日クレタ クレタ空挺降下作戦

イギリスは地中海クレタ島に北アフリカ戦線の大きな根拠地を持っていた。ドイツは地中海を制するために空挺部隊でクレタ基地を襲撃する。

・1941年10月21日アムール川 熊と龍と鷹

満州とソ連の国境の緊張は高まっていた。一方、独ソ戦を打開するためにソ連はシベリア師団をモスクワへ向かわせようとしていた。ヒトラーは日本にシベリア師団を釘付けにすることを要請した。

・1941年12月6日真珠湾 真珠湾攻撃

日米の対立は修復不可能なところまで来ていた。太平洋における優位性を確保するため、山本五十六はアメリカ太平洋艦隊の基地ハワイ真珠湾急襲を立案した。

・1942年4月18日日本 日本本土空襲

太平洋戦線において出遅れたアメリカは反攻の手がかりを見つけられずにいた。マッカーサーは流れを引き寄せるため、爆撃機による決死の日本本土空襲を指令した。




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