【第零膜:カミのオモテ(表←→紙)】

その戦乱,四百年の年を数え
いまだ終わる気配すら見えず
悪鬼羅刹跋扈する
終わり亡き戦乱の世
その地の名は――天羅
血と肉と鋼の時代――時は戦国

 〈『天羅万象』は,1997年当時,たしかにRPGの頂点であった〉.

 そして3年後の2000年,RPGの〈進化〉に呼応し,新たな『天羅万象』が誕生した.それが〈世界最速の,最新の,究極の,本物のRPG,『天羅万象・零』である〉.

 『天羅万象・零』というRPGは,〈前作とまったく違うわけではないが,まったく同じでもない〉.注意が必要である.

 『天羅万象』と『天羅万象・零』との共通点および差違とは何か.

 “零”がつく以前の『天羅万象』を特徴づけるもの,それは《ハイパーオリエンタルRPG》という帯のコピー,そして《巨大ロボットとロリータ系美少女を組み合わせたイラスト》だ.

 売り手は売るために商品に《イメージ》を付与する.その《イメージ》は買い手の《欲望》をかきたてるために選ばれたモノ.だから1997年当時,売り手によれば,買い手である〈我々〉の《欲望》をかきたてるモノは《巨大ロボット》と《ロリータ系美少女》なのだった.

 2000年,《ハイパーオリエンタルRPG》は〈本格オリエンタルファンタジー〉かつ〈世界最速のRPG〉となり,《巨大ロボット》は表紙から姿を消す.しかし《ロリータ系美少女》の《イマージュ》は3年前と変わることなく健在だ.2000年になっても変わることなく,《ロリータ系美少女》は〈我々〉の《欲望》をかきたてるモノなのだった.

 〈我々〉が欲するモノの《イメージ》,《ロリータ系美少女》に注目しよう.

 〈刀〉を手に(無邪気に)微笑む《ロリータ系美少女》.

 〈刀〉とは人を《刻み》−《傷》つけ《跡》をのこし−《殺す》ための《道具》すなわち《装置》である.《少女》が手にしているこの〈刀〉は〈珠刀〉と呼ばれるモノだ(トリガーを備えた《装置》を〈刀〉の柄に組み込んでいるのがその証左).〈珠刀とは,照射された霊気を増幅し,またそれ単体でも霊気を放出する特殊鉱物“珠”を使用することが可能な刀だ〉.それは〈珠〉を破砕するための〈珠衝器〉と呼ばれる《装置》を〈搭載〉する.〈刀〉と〈珠衝器〉,これらの《装置》は《痕(きずあと)》をつけ《破壊》するための1つの〈システム〉として,〈融合し,互いを補完しあいながら有機的に機能する〉.

 《少女》は奇妙な《衣装》を身にまとう.《ハイレグ水着》のようなその形状.《水着》の布は肝心なところを《隠し》ている.しかし同時に《隠す》こと自体によって《隠す》対象(モノ)の存在を《あらわし=あらわにし》ている.《水着》が《隠す》モノとは《欲望》の対象だ.そしてそれは性交−出産のために〈有機的に機能する〉1つの〈システム〉である.

 〈刀〉を手にした《ロリータ系美少女》は,性交して出産し(快楽,創造),傷を刻み跡をのこし(刻印,痕跡(きずあと)),殺戮し葬り去る(消去,忘却)ための〈システム〉を(潜在的に)所有する.この〈刀〉と《ロリータ系美少女》という2つの〈システム〉は,1つの《イメージ》として〈融合し,互いを補完しあいながら有機的に機能〉し,買い手の《欲望》をかきたてる1つの〈システム〉となる.

 《ロリータ系美少女》という〈システム〉に《欲望》をかきたてられた〈我々〉は,商品を購入し,『天羅万象・零』という名の〈システム〉を所有するに至る――至ったは良いが,そもそもこの〈零〉の〈システム〉ってナニよ,ナニさ? そこで裏表紙に注目しよう.そこにはこう記してある:〈“零式”――世界最高速の物語作成型ロールプレイ支援システムを搭載.強力なゲームエンジンが,いままでのエンターティメントが到達しなかった領域へとキミを誘う〉.〈世界最速の物語を体感せよ!〉.

 『天羅万象・零』が〈搭載〉する〈世界最高速〉の〈物語作成型ロールプレイ支援システム〉,この〈強力なゲームエンジン〉によって〈キミ〉は〈世界最速の物語を体感〉する.

 コワイかい?

 無理もない.そこは〈いままでのエンターティメントが到達しなかった領域〉,《スピードの向こう側》ってヤツだ.〈零〉とは〈世界最速〉〈因縁に生き,業に死す,世界でもっとも過激なRPG〉なのサ.

 でも大丈夫.〈人は,分かりあえる〉ンです.〈物語〉を〈共有〉することで.そのための〈零システム〉ですよ?

 だが,そのためにはまず〈零〉という〈システム〉を知る必要がある.表紙をめくろう.

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