【第二膜:シェア−ウエア(ware=wear)】

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 “零”とは,何だろうか?
 “零”とは,“物語”だ.

 人は〈事象に関連性を見つけ,因果関係をつけたもの,つまり物語として認識している〉.〈我々の記憶は,物語になったところで,初めて定着する〉.《あなたは物語を紡いで生きている》のだし《物語はあなたという存在を形作っている》.〈我々は,物語なしには生きていけない〉.

 そして〈零〉は〈君に物語を語らせる〉.これは〈君ひとりが語るたわごとではない.物語の共有なのだ〉.〈人が集まって,共同の物語が組み上がる.それを君は,僕は,共有することができるのだ〉.これぞ〈零〉の〈物語〉.

 〈世界最高速〉とは〈共有できる物語を作り上げる〉〈物語のできあがっていく〉〈スピードのことだ〉.《カウント・ゼロ》で突っ走れ!

 ところで〈物語〉を〈作る〉のは「誰」?

 「誰」よ? 

 〈零システム〉は(残念ながら)《マニュアルレス》ではない.〈零システム〉の《操作性》が《みんな》にとって《快適》か否かは不明である.しかし,それでも《ユーザー》によっては《通常の》RPGシステムと《同様の感覚ですぐに運用が可能》だろう.そもそも〈珠刀〉という〈システム〉は〈一兵卒にもてるようなものではない〉.〈珠刀〉という〈システム〉をもつものは〈一兵卒〉ではない.

 (《マニュアル》をもってしまった)〈零〉の〈速さの秘密〉は,〈物語のタネをあらかじめ,キャラクターデーターや世界観などに仕込むこと〉にある.〈零〉は《出荷時》に〈物語のタネ〉が《設定されて》いるのだ.〈零システムは,タネをまくのではなく,苗を植えることで物語が形成されることを助けるというコンセプトで作られている〉.

 これは〈物語〉に関する《ユーザーの生産性を飛躍的に高めた》.なにしろ従来〈物語と飛ばれる果実〉の《生産》−《収穫》は〈運〉まかせだったのだ.〈物語〉の〈タネ〉まき,および〈苗〉育成の《作業の自動化》により,〈零〉は《世界最速》となった.〈零システム〉は〈一兵卒にもてるようなものではない〉.なにしろ〈世界最速〉なのだから.そして〈零システム〉の《ユーザー》にとって,〈すでに問題は,“物語”という果実を得られるかどうかではなく,それをいかに味わうか,どのように料理するかに変化したのだ〉.《メガトラ》? 《旧世代》の〈ゲーム〉ですな.

 〈各キャラクターが自分の役割を果たし,物語を盛り上げるために全力を尽くす.これが零で理想とされるゲーム風景だ〉.〈『すべてはドラマのために』存在する.あなたのキャラクターは,その物語のなかで確固たる位置を占めている.この物語はあなたの物語なのだ〉.《スナックは,ただ単にある新しい必要性に応ずるだけでなく,その必要性にある種の演劇的表現を与え,そこに出入りする人々を現代的な人間とし,現代生活の極端な速さを支配し,制御する管理者とする》.Yes,my master.〈やられ役のザコ相手に[邂逅]ロールを振る必要はないということだ〉.〈時は戦国〉.〈やられ役のザコ〉なぞ《記憶に,ございません》ってゆ〜か《Out of 眼中》.〈さぁ,世界最速のあなただけの物語を存分に味わい,楽しもうではないか〉.それはいいけど《あなた,誰》? ……なぁ〜〜んて《ツッコミ》入れるのは《ノリ悪いぜ》,チャマ!

 そもそも《作者というのは,おそらくわれわれの社会によって生みだされた近代の登場人物》.あるコトが《自動的な目的のために物語られるやいなや》《作者が自分自身の死を迎え,エクリチュールが始まる》.《作者の死》,〈それは,何もお約束がどうとかの問題ではない〉.〈お約束〉は《破壊できず,ただその《裏をかく》ことしかできない》.

 一編の《テクスト》のなかで《エクリチュールは,互いに対話をおこない,他をパロディー化し,異議をとなえあう》.こうして〈竜樹〉は《ジェダイの騎士》となり,《キリコ・キュービィ》は〈ヨロイ〉のなかで〈冷凍保存〉されることになった.これぞ《零度のエクリチュール》,みたいな?

 《テクスト》,《そこではさまざまなエクリチュールが,結びつき,異議をとなえあい,そのどれもが起源となることはない.テクストとは,無数にある文化の中心からやって来た引用の織物である》.引用,すなわち《共有》だ.

 〈零〉のキーワードは〈“主張”と“共有”〉.〈“零”とは,“コミュニケーション”だ〉.〈主張〉と〈共有〉,この〈ふたつのファクターが,コミュニケーションの始まりである〉.

 〈零〉には〈オニ〉がいる.〈彼らは,人類より深いレベルで分かりあえてしまう.彼らのあいだでは,情報は均一化される〉.〈我々はオニと違って本質的に分かりあうことがない.だから,我々は物語を作るのだ.そしてそれを共有することで,我々は“分かりあう”のだ〉.《ゼロがいい,ゼロになろう,もう一回》ってゆ〜のは,古いかな,もう.

 〈物語〉を〈楽しむ〉ためには《実は他者であり続けることが必要なのだ》.しかしそれは《突き放してよそよそしい平静を保つということではない》.それは《他者=物語のなかに自己=読む者の心を映すことだ》.《そのとき我々が見るのは我々自身の影である》.《テクスト》は《読者》を宛てにする.その宛て先は《あるエクリチュールを構成するあらゆる引用が,一つも失われることなく記入される空間》だ.ところでこの文(テクスト)の元ネタ,《わかる? わかる? わかんないかな?》

 《悲しい場面を悲しいと思うとき,我々は個人の生育の歴史のなかで経験した悲しい気分の記憶を再生する》.《物語》は《悲しい記憶を再生するスイッチ》を押す.《物語は我々の感情のよりしろだ》.〈君の感情を他人と共有するため〉.〈零〉は〈情動をコントロール〉する.〈“零”とは,“情動の支配”だ〉.そう,《僕がいて,君がいる》.〈そして同じことを考えている.同じことを感じている〉.仮に《わたしの物語》《あなただけの物語》を《表現》しようとしても,〈我々〉そして〈君たち〉が《《翻訳する》つもりでいる内面的な《もの》とは,それ自体,完全に合成された一冊の辞書》だ.《書き手は,もはやおのれのうちに情念も,気質も,感覚も,印象ももたず,ただこの果てしない辞書をもち,いかなる停止もありえないエクリチュールを,この辞書から汲みだすのだ》.《引用》の《引用》,《パロディ》の《パロディ》,だから〈零〉の〈物語〉は〈君ひとりが語るたわごと〉――「モノカタリ」=「mono-語り」――ではない.〈物語の共有なのだ〉.

 〈我々はひとりで生きているわけではない〉.〈このことを確かめるのが,コミュニケーションである〉.

 〈それはただの情報交換ではない.人が生きるために必要な行為なのだ.

 そして,そのコミュニケーションが素晴らしい速度で,想像を絶する密度で行われる〉.〈それは,演劇でも,映画でも,小説でも,そして君の夢でさえも補完が不可能なほどの至上の快楽,究極のエンターテインメントだ〉.

 《これが,インターネットです》,じゃない,〈『天羅万象・零』なのだ〉.

 〈我々〉そして〈君たち〉は〈零〉で《接続》する.そして〈内包〉された〈物語〉を《転送》し,〈共有〉する.これが〈零システム〉だ.〈零〉とは《シェアウエア》だ.

 《シェアウエア》は《作者》の《「自己表現」の一つの方法でもある》.それは《ネットワークで流通する事を前提としている》《生産》物だ.

 《ネットワークで流通する事を前提としている》〈物語〉,それを〈我々〉そして〈君たち〉は〈共有〉する.〈共有〉される〈物語〉.〈共有〉される《商品》(ware).

 〈我々〉は〈物語〉で《交わる》.〈物語〉が《生産》される.〈システム〉の機能は〈物語〉の〈快楽〉と《生産》――〈創造〉だ.

 〈我々〉は〈物語〉を〈創造〉する.〈物語〉という「きず」を「つくり」,《痕跡》を〈記憶〉に《刻印》する.〈『天羅万象・零』は,喜劇よりも悲劇が似合うRPGである〉.〈悲劇〉の《傷痕》,《刻印−痕跡》のための〈システム〉.これが〈零〉だ.

 そして〈『天羅万象・零』というゲームは,ゲームに参加する全員の協力で,美しくも哀しい,楽しくとも苦い物語を作り上げることを目的としている〉.〈修羅〉を《殺害》し〈業〉を〈昇華〉すなわち《浄化》する.ナミダの《雫》.《カタルシス》により《トラウマ》を《癒す》.《ありがとう,そしてさようなら》.これぞ〈零〉の〈物語〉.作ってよマスター《涙忘れるカクテル》.《お支払い》は〈合気チット〉で.

 〈珠刀〉は《浄化》のため,《少女》に《殺戮−忘却》の機能を与える.《少女》は(無邪気に)微笑んでいる.《少女》は自らの〈システム〉を1度たりとも使用したことが無い(かのようだ).《血》はあくまで《衣装》の彩りで《少女》の肢体には《痕》1つない.《少女》の《衣装》だけが《血のように赤い》(しかし,それは血の赫ではない).ケガレ無き《ロリータ》.

 そりゃ,そーだ.〈『天羅万象・零』は遊びである.遊びで人を傷つけるのはよくないことだ〉.だから〈我々)が〈傷つける〉のは飽くまで《衣装》(wear).《少女》の肢体には《痕》1つない.ってゆーか,ヒトを――こんなにも《無垢》な《女》《子供》を――《傷つける》なんてサイテーだね.《オジサン》.

 〈零〉は《シェアウエア》だ.そこでは〈共有〉すること,《シェア》が大切だ.1人語りはよろしくない.そいつは独り善がりだよ,兄ちゃん.「Share」――〈共有〉と〈役割〉,これをわきまえてこそ《分け前》にもあずかれるってモンさ.

 《痕》は,だから飽くまで《衣装》であり《商品》だ.涙の《雫》,それだって《商品》であり《衣装》だ.《オタク》の《シェアウエア》.ところで《痕》に《雫》だってヨ.それってもはや(噂には聞くけど)《旧世代》の〈ゲーム〉だゼ.ってこれイチオー冗談なんスけど,分かんないっスか? マジ? ねぇマジ?

 ……《終劇》!

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