RPGシステム紹介
Call of CTHULHU(クトゥルフの呼び声)は、当研究会において最もポピュラーなRPGの一つでした。
しかし現在、Call of CTHULHUは、誌上(市場)におけるサポートの断絶、各種サプリメントおよびルールの邦訳の絶版などの理由から、あらたにプレイしようとする者にとって敷居の高いシステムとなっています。
これは非常に残念なことです。
そうした傾向に微力ながらも対処すること、ならびに新たにCall of CTHULHUをプレイする者へのサポートを目的として、「敷居の高く」なってしまったCall of CTHULHUについて、簡単な紹介をさせていただきます。
今回は、Call of CTHULHUがいかなるRPGであるか、その魅力とはいかなるものかについて、概観します。
Call of CTHULHUとは、H・P・ラヴクラフトの〈クトゥルフ神話〉をモティーフにした、ホラーRPGです。
おもに19世紀後半〜20世紀の近現代世界(1920年代のアメリカ、1880年代のイギリス、1990年代の日本など)を舞台に、プレイヤーは「探索者」と称される好奇心旺盛な人物となり、奇怪な事件を調査し、またはそれに巻き込まれ、恐るべき真実に遭遇します。これが、このRPGのコンセプトです。彼らの探索行の最後に待ち受けているのは、死、あるいは狂気。たとえ危機から生還できたとしても、手に入れた禁断の知識は、いずれはキャラクターに破滅をもたらすことになるのです。
また、〈クトゥルフ神話〉をモティーフにしたといっても「探索者」は基本的に現代的な一般人であり、クトゥルフ神話について、なんの知識も持ち合わせていません。ゆえに、〈クトゥルフ神話〉についてとりたてて知識をもたないプレイヤーでも充分にCall of CTHULHUをプレイし、楽しむことができます。
クトゥルフ神話について知識を持たなくても、Call of CTHULHUで普通のホラーシナリオを作ることは充分可能です。
たとえば小説『リング』(鈴木光司、角川)の内容、、とくに“貞子”という恐怖の存在に対する主人公たちの行動は、きわめて“クトゥルフ的”です。『八墓村』や『犬神家の一族』(横溝正史、角川)、『死国』や『狗神』(坂東真砂子、角川)などの作品もまた、クトゥルフのシステムによってRPGとして楽しむことができるでしょう。
重要なのは、このゲームが「ホラーRPGだ」ということです。
一般のファンタジーやSFのRPGとことなり、Call of CTHULHUの「探索者」は、偶然に"普通じゃない"事件に巻き込まれた、普通の人にすぎません。
「一般人」である彼らが、いわいる「化物」相手に雄々しく戦いを挑み、あまつさえそれに勝利する、なんてことがありえないのはホラー映画などを思い浮かべていただければわかるでしよう。しかしそんな「一般人」も、生きのびる為や大切なものを救う為には、最後まであがき、もがくものです。そしてその行い次第では、その努力が報われる可能性もあるのです。
Call of CTHULHUは、「観客」としてキャラクターの恐怖や破滅を楽しむゲームであり、かつ、「登場人物」として、弱く限りあるその力を駆使し、謎を解き明かし、恐怖と対峙することを楽しむゲームである、と言えるでしょう。
先ほど述べたように、Call of CTHULHUは、おもに19世紀後半〜20世紀の近現代世界、とくに1920年代のアメリカ、1880年代のイギリス、1990年代の日本などを舞台としてプレイされます。
われわれになじみが深いのが、なにより1990年代の日本でしょう。1880年代イギリスとは、少しわかり難いかもしれませんが、早い話が「シャーロック・ホームズ」の時代のイギリスです。または、「切り裂きジャック」「パリ万国博覧会」の頃のイギリスだ、といえばだいたいのイメージが思い浮かぶのではないでしょうか。
おそらく、最もそのイメージが浮かび難いのが、1920年代のアメリカでしょう(「禁酒法」時代のアメリカ、もとい、映画『アンタッチャブル』の頃のアメリカだ……といって通じれば話は早いのですが)。
しかし、1920年代のアメリカは、最も重要な舞台であり、この時代の雰囲気を知ることはCall of CTHULHUを楽しむために大切なことです。詳しい解説は後の機会に譲るとして、ここではその概観だけでも述べておきます。
1920年代のアメリカは、第一次大戦後の好景気のさなか、アメリカ中が陽気に浮かれ騒いでいた時代です。好景気に誘われ、田舎から都会に人々は移り住み、100メートルを越えるビルが林立するようになりました。家庭に電気が引かれるのが一般的になり、ラジオやチェーンストア、自動車などが急速に普及したのもこの頃です。ファッションが変化し、男女を問わず若者全体に、古いモラルを打ち壊して自由気ままに生きようとする風潮が生まれました。
また「禁酒法」が施行され、各地にもぐりの酒場が生まれました。そうしたもぐりの酒場の背後には密造酒を扱うギャングがいて、互いにしのぎを削り合っていました。
1920年代といえば日本で言えば大正末期から昭和初期にかけてのことで、古い時代のことのように思われるかもしれません。
しかし、実は都会の人々の生活は基本的に現代とさして違いのないものでした。なかったのはテレビとロックとコンピューター、ならびに携帯電話ぐらいなものです。
Call of CTHULHUの背景世界を語る上で、欠かせないのが〈クトゥルフ神話〉です。
Call of CTHULHUをプレイする際、プレイヤーがクトゥルフ神話の知識を持っている必要は必ずしもありません。しかし全く知らないとあっては、せっかくマスターが用意したネタのどこが怖いのか、いまいちピンとこず、結果としてセッションの面白さがいまいち味わえないことになります。プレイヤーがクトゥルフ神話についての幾許かの知識なり、イメージなりをもっていたほうが、プレイヤー・マスターともにCall of CTHULHUのセッションを楽しめることはたしかです。
というわけで、以下に〈クトゥルフ神話〉の概略を紹介します。
この宇宙の中心、正常な物理法則を逸脱した混沌の奥には、白痴で盲目の絶対神アザトースの玉座がある。アザトースは従者の吹き鳴らす忌まわしいフルートの音色に合わせて、その不定形のおぞましい巨体を絶えずのたうち回らせ、その周囲では異形の神々がよたよたと躍り続けている。
アザトースは三つのものを生んだ。「闇」と「無名の霧」、そして千もの異なる姿を持つ"這い寄る混沌"ニャルラトテップである。ニャルラトテップは知性を持たないアザトースに代わってその意向を代行する使者であり、しばしば人間の姿をとって現われ、地上に狂気と混乱をもたらすべく暗躍している。
「闇」からは黒い豊穣の女神シュブ=ニグラスが、「無名の霧」からは時空の支配者である恐るべきヨグ=ソトースが生まれ、この両者の結婚から、数多くの不気味な子孫たちがこの宇宙に生み落とされた。
そうした子孫のひとつに大いなるクトゥルフとその眷属たちがいる。彼らは太古の地球に飛来し、長らく地上を支配していたが、何か天文学的な変動によって一時的にその力を失い、ムー大陸の沈没とともに海に沈んだ。現在は南太平洋のルルイエの海底遺跡で眠りながら復活の日を待っている。
地球を支配していたのはクトゥルフばかりではない。神々ほどの力はないものの、優れた科学や文化を有した種族が、人類以前にも多数存在した。
大陸が分裂する前の原初の地球に最初に移住したのは「古きものども」と呼ばれる種族だった。彼らは地球上に生命を創造したが、何億年という時の流れにつれてその驚異的な技術の数々は忘れさられ、後からやって来た他の異性種族との抗争や、奴隷生物ショゴスの反乱などによってしだいに疲弊し、最初の植民地であった南極大陸に撤退する。やがて彼らは絶滅に近い状態に追いこまれ、わずかな生き残りが海中に移住した。
精神生命体である「偉大なる種族」は、イスと呼ばれる超銀河世界から到来し、一〇億年前の地球に存在していた円錐状生物の肉体に宿った。彼らは六億年前に太陽系の四つの惑星を支配していた「盲目のもの(空とぶポリプ)」という肉食生物と戦い、地底に封じこめた。「偉大なる種族」の時代は今から五〇〇〇万年前まで続いたが、やがて「盲目のもの」の逆襲によって自分たちが滅ぼされることを予期し、超未来の甲虫型生物の肉体に避難する。
その他にも数々の知的種族が、現在もなお地球各地に隠れ住んでいる。海中にひそみ、眠れるクトゥルフに仕える両棲生物「深きものども」。ユゴス(冥王星)から地球の高山地帯にしばしば飛来し、「ヒマラヤの雪男」として恐れられるミ=ゴ。地底に住むヴァルーシアの蛇人間……彼らはそれぞれに邪悪な目的を抱き、人類の生活をじわじわと脅かしている。だが、人類の多くはこの事実を知らない……。
『クトゥルフ・ハンドブック』(著者:山本 弘、1988、ホビージャパン)より
Call of CTHULHUのシステムについて、ごく簡単に紹介します。
Call of CTHULHUのシステムは、通称ベーシックロールプレイング(BRPシステム)というもので、Call of CTHULHUの他にも「ルーンクエスト」や「ストームブリンガー」など、いくつかのRPGで使用されています。
キャラクターはSTR(Strength 筋力)、INT(Intelligence 知性)といったいくつかの能力値と、「言いくるめ」「ライフル射撃」「天文学」などといった技能によって表されます。
Call of CTHULHUでは約40種類前後の技能が用意されており、場合によっては新たな技能を作ることもできます。
また、クトゥルフ独自のルールとして、SAN(正気度)チェックというものがあります。これは、キャラクターが恐怖すると思われる場面で、どれくらい恐怖したか(正気を失ったか)を、SAN(正気度)と呼ばれる値を用いて判定するもので、この判定の結果、大量にSANを失うと、あまりの恐怖に「発狂して」しまいます。
行為判定はいたって簡単で、パーセンテージロールを行います。つまり、百面ダイスを振って、目標値(大抵は技能%または能力値のX倍〉以下の値が出れば成功です。
また、抵抗判定と呼ばれる判定もあります。これは、能力値と能力値を競い合わせるためのものです。相手の能力がわからないことがままあるので、普通は百面ダイスを振って、{判定に用いる自分の能力値+(50−D100ロールの結果)÷5(切り上げ)}をマスターに宣言します。
現代世界における一般的かつ様々な人物や職業を数値的にあらわすことが楽にでき、またSAN(正気度)チェックにより、あまりの恐怖に直面すると「発狂する」ことが再現できるCall of CTHULHUのシステムは、ホラーやミステリーなどのシナリオをプレイするのに適しています(システムも簡単)。
以上、Call of CTHULHUがいかなるRPGであるか、その魅力とはなにか、ということについて、私なりに、駆け足で概観してみました。
この記事を読まれた方に、Call of CTHULHUについて少しでも興味を持っていただけたなら、幸いです。なにかご意見やご要望があれば、ぜひ筆者のところまでおよせいただけると幸いです。
独断と偏見でえらぶ、おすすめクトゥルフ神話作品一覧です。ここに挙げたラヴクラフト作品のほとんどは、創元推理文庫から出ている『ラブクラフト全集』(全6巻)や、青心社からでている『暗黒神話体系クトゥルー』(1〜11)に収録されています。後者の方はラヴクラフト以外の著者の作品も収録されています。