海外RPG紹介

Heavy Gear

ロボットRPGのフロンティアへようこそ!!
文責:PAC

0.はじめに

 いやー、やっぱ巨大ロボットっていいですなあ。やっぱロマンがありますからねー。今の20、30代の男で「鉄人28号」やら「ジャイアントロボ」やら「マジンガーZ」やら「ガンダム」やら「ボトムズ」やら「勇者シリーズ」の影響を受けてない人なんてあんまりおらんでしょう。この手の「巨大ロボット」もの(まあ最近はスーパーロボット大戦のおかげで、リアルロボットだのスーパーロボットだの範疇分けされとりますが)というのはその巨大ロボットの、ある種論理を超えた、強さ、大きさ、無骨さなどが男の心に訴えかけてくるからでしょう。

  まあそういう影響を受けている人間はこの日本だけではなく、「超時空要塞マクロス」のおかげで巨大ロボットの魅力にハマッた奴等がアメリカ大陸にもいるわけですから、このRPG業界においてロボットRPGが作られないわきゃないわけで、RPGの黎明以来結構な数が作られております。そして国内外合わせて最も新しいレベルにあるであろうロボットRPGが、カナダのRPG制作会社Dream Pod 9Heavy Gear なのです。

1.イメージコンセプト

 このDream Pod 9のメンバー最初はどうも、アメリカ最強のOtakuRPGメーカーR. Talsorian Games(最近元気がない)の汎用ロボットRPG MEKTONの背景世界サプリメントを作っていたらしいんですが、それに飽き足りなくなって自社でRPGを作りたくなっちゃったんですな。曰く「我々は長い間、クールなキャラクターとマシンを含んだ、壮大で叙事詩的な自分達のゲーム世界をクリエイトしたかった」というわけで1994年の後半に第1版がデビューしたわけです。

 この頃の海外RPGシーンにおける叙事詩的な背景世界を持っているロボットRPGといえば、「メックウォリアーRPG」(富士見文庫刊)だったわけで、なかなか大胆だったといえましょう。しかしながらメックウォーリアーにおけるロボットのイメージは「マクロス」からとったもので、宇宙でも地上でも戦えるロボット(メック)というものなんですが、Heavy Gearではロボットのイメージを「装甲騎兵ボトムズ」の前半部分、すなわち戦車の進化系として考えております(スペシャルサンクスとかいって高橋良輔の名前があったりする)。

 また「メックウォリアー」の背景世界は全宇宙を巻き込むような大きなストーリーなんですが、このHeavy Gearではほぼ、一つの惑星であるテラノヴァが背景世界の根本となります。ここいらへんからも「メックウォリアー」への対抗意識が見え隠れするわけですが、やはり一番強烈なのがルール部分でありまして、「健全な程度のリアリズムを交えたプレイアビリティとスピード」というまるで「バトルテック」の戦闘に文句を付けているようなコンセプトで彼らはルールを作っております。と、こういう「メックウォリアー」をかなり意識したコンセプトがHeavy Gearにはあるわけです。

2.テラノヴァ:時代設定

 Heavy Gearのの背景世界は52世紀に地球人類が入植した、地球に似た大気組成と気候を持った惑星テラノヴァ(Terra Nova)です。テラノヴァには海は存在せず(惑星の高緯度付近には湖がありそこから低緯度側に川が流れているが水系は基本的に地下にある)、人間にとって居住し易い程度には穏やかな環境を持っている北半球と南半球の高緯度地域と、北と南を分断する中央の厳しい砂漠地帯バッドランド(Badlands)の三つの地域に分かれています。1日が36時間、そして1年は168日(この1年はCycleと呼ばれている)です。

 西暦5790年(テラノヴァ暦1454年)に、地球内の政治的危機によって地球との連絡が隔絶したテラノヴァの入植者達は地球から自立することを余儀なくされましたが、テラノヴァ人は逞しくも厳しい環境に適応し社会を発展させました。そしてテラノヴァの厳しい環境は、確実性がなく壊れやすい高度なテクノロジーよりも、確実に動くテクノロジーを重視させて行きました。

 地球との隔絶の後に、テラノヴァの人々は連盟(leagues)と呼ばれる7つの国家にまとまり、さらには北半球と南半球にある連盟がそれぞれ同盟して連邦(confederation)と呼ばれる二つの大きな組織にまとまって行きました。この北と南の連邦は次第に冷戦状態の中で対立を深めて行き、ついには南北間で最初の大戦、聖ヴィンセント戦争(St. Vincent's War)が起こりました。この大戦でテラノヴァの人口の5%が犠牲になったといわれています。

 この大戦の後も二つの連邦は対立を深めていましたが、西暦6118年(テラノヴァ暦1913年)に、政治的にまとまりかつての植民星を再び手に入れようと地球の軍隊が40万人の強力な兵士を連れて再占領作戦を開始しました。その圧倒的な戦力の前に、ついには二つの連邦は協力し、地球軍を撃退しました。この戦いは二つの連邦が初めて手を取り合い戦ったことから「同盟の戦争(War of Alliance)」と呼ばれています。しかしこの「同盟の戦争」による両極の雪解けの期間は短いものであり、西暦6132年(テラノヴァ暦1933年)現在では再び冷戦が始まっており緩衝地帯であるバッドランドでは様々な小競り合いが起こっています。今にも両極間に大戦が起きそうな予感が漂っているのです。

 この一触即発の状況下でありながら、また地球からの占領軍の脅威も未だ存在する、このテラノヴァでの冒険こそがHeavy Gearに用意された時代設定なのです。

 カモン!これをやらなきゃ損だぜ! (Dream Pod 9のウェブページ紹介風に)

3.テラノヴァ:国家と地理

 北の連邦は、北部都市国家連邦(Confederated Northern City States:CNCS)と言います。その結びつきは緩やかなもので、南半球とは違って自然に生まれた同盟関係です。北の人々の多くは、保守的で、鋭いウィットと勤勉性を好み、そして修正主義教会(英語ではrevisionist churchとなっており日本語訳すると急進的社会主義者みたいで変)の敬虔な信者です。地球の歴史上の国家で例えると、技術力が高くゆるやかな国家共同体体制(EUのような)を持った帝政ロシアでしょうか。修正主義教会はある種ギリシャ正教に通じる部分も多いですし(イスラム的なところもあるけど)。ロシア的というと技術力が低そうですが(筆者の勝手な思いこみ)、テラノヴァでのテクノロジーは北側のほうが高く、実際最初のギアであるハンターを開発したのはCNCSの連盟の一つマーチャント連合連邦だったりします。

 CNCSは、修正主義教会の本拠地でもありCNCSの中心でもあるお堅い国民性の「ノーザンライト連合国(Northern Lights Confederacy)」、商売大好き「働かざるもの食うべからず」の技術商業大国「マーチャント連合連邦(United Mercantile Federation)」、西部大平原の軍と氏族を中心とした社会を展開する頑固者国家「西部フロンティア保護領(West Frontier Protectorate)」、の三つの連盟から構成されます。基本的な言語はアングロ=サクソン系、多分ドイツ語みたいに堅めの言語なんでしょう。

 南の連邦は南部地域同盟(Allied Southern Territories:AST)と言います。ASTはCNCSとは違って、ASTの一連盟である南部共和国が他の三つの連盟の指導者を任命しており、実質的には南部共和国の独裁であるといえます。ASTの国土は北の厳しめの自然環境よりもバラエティに富んでいて、熱帯ジャングル気候やらサバンナ気候やら色々。そんな気候のもと、南の人々の国民性は地球の熱帯や亜熱帯のように、リベラルで自由奔放であり、個人の自由が尊重されているというものです。ただし、南部共和国の独裁は強固で、政治的な自由は許されずそれに反したものはほとんど死刑らしい。地球の歴史上の国家で例えると、メキシコあたりに来てしまった最近のパックス・アメリカーナ的専制性を強大にしたアメリカ合衆国を中心としたNAFTAでしょうか。

 ASTは、アメリカのエゴイスティックな部分を強化した専制的ヤンキー達による国内にはリベラル民主的で対外的には専制的な国家「南部共和国」、理想的な社会主義国家を作ろうとして全然成功していないんだけど国民はまあまあ満足しているというキューバ(?)のような国家「ヒューマニスト同盟」、南のマーチャント連合連邦といえる秘密政治と賄賂が大好きなちょっと日本の高級官僚臭い企業連合国家「メコン統治領」、鉱工業と冶金業に依存しプロレタリアートの叛乱に脅える貴族制階級主義国家「東部太陽首長国」、の4つの連盟から構成されます。基本的な言語はフランス語、イタリア語、スペイン語とラテン系の脳天気な国民性が出てますな。

 そしてこの北と南の連邦を分断する、地域的かつ政治的な領域である厳しい砂漠地帯をバッドランドと呼びます。この数千キロ四方にも及ぶバッドランドは、CNCSからもASTからも影響を受けない政治的な緩衝地域になっています。そのほとんどが不毛で高温な砂漠で、所々にオアシス都市があります。

 「同盟の戦い」で北と南を協力に導いたパクストンアームズのあるピースリバー市、バッドランドで生まれた新しい都市国家連合ニューコールの中心都市であるポートアーサー市、地球軍の人造人間兵士がテラノヴァの人々との共存を求めて作ったジャンメイエン市、ギア同士の1対1の戦い、デュエル(ボトムズのバトリングそのまんまである)が頻繁に行われるカイル・アディン市、修正主義教会の聖地マッサダ市、などが有名なオアシス都市です。

 バッドランドは地球軍の侵略の爪痕が未だ生々しく残っており、その気候から言っても住むのに適した地域ではありません。しかし政治的空白地域であるがゆえに様々な勢力が入り乱れるこのバッドランドではチャンスに満ちた場所といえるでしょう。そしてこのバッドランドこそが、プレイヤーキャラクター達の夢や希望(そして野望)をかなえる為の主戦場なのです。

4.ギア

 さてロボットRPGというからにはその花形であるロボットを紹介しないといけませんな。Heavy Gearではギア(Gear)と呼ばれています。

 テラノヴァは地球とは違って岩だらけで山がちな環境だったので、地球では特殊用途にしか使われていなかった歩行タイプの機械が開発などに非常に有用でした。そのおかげでこの種の歩行機械はテラノヴァでは広く使われるようになり、軍事行動においても必要とされるようになったわけです。まあここいらへんはロボットRPGには必須な何故軍事に不利な歩行機械が使われるのかという論理的裏付けの設定です(ミノフスキー粒子の開発とモビルスーツみたいなもんです)。

 最初にまともに兵器と言える軍用の歩行機械、すなわち歩行歩兵車両を開発したのはマーチャント連合連邦です。この最初の箱型のマシンが最初のギア「ハンター」なのです。さて、北においてギアは開発され、CNCS諸国(この当時は未だ同盟していませんが)にはこの新兵器ギアが力を発揮します。しかし南ではそのハンターの威力に悩まされつつも、南部共和国は同種の兵器を開発できていませんでした。しかし南部共和国は幾度も失敗した後に、ハンター開発の3年後にやっとハンターを1体盗み出すことに成功し、その6ヶ月後に共和国のハンターたる「イェーガー」を開発に成功するのです。こうして生まれたギア達はテラノヴァの多くの軍事用途に従事し、その後の兵器開発はギアの開発が中心となっていきます。

 ギアは歩行機械であることから、人間のように歩くことができますが、足底部にキャタピラがあるので平地ならば車のように素早く移動することも可能です。その兵装は一般的に、オートキャノンとミサイル類あとは近接戦用に高周波タイプの振動武器と手榴弾が用意されています。ギアには汎用、偵察、重爆撃型と大別して3種があり、中射程の重火力支援型のユニットで2人乗りのストライダーというものもあります。そしてHeavy Gearにおいて、一般的にプレイヤーキャラクターはこのギアのパイロットを演じることになります。

5.システム

 Dream Pod 9はこのHeavy Gearで開発したRPGシステムをシルエットシステムと呼んでいます。アメリカ人こういう風にシステムに名前付けるの好きですな。このシルエットシステムはこの後にDream Pod 9から発表されたRPG、ジョビアンクロニクル(Jovian Chronicles)トライブ8(Tribe8)でも使われてます。

 基本的な判定法はD6をいくつか振って一番大きい目を採用し、6が2個以上でた場合は余分の6の数だけ目に加えて値を求め、それを達成値と呼びます。たとえば3個振って、1、4、5と出たら達成値は5。5個振って、1、6、4、6、6と出たら達成値は8です。すべてのダイスの目が1だとファンブルで、達成値は0とみなします。まあこれが基本。そして、判定には技能判定能力値判定チャンステストの3種類があります。

 技能判定ではその技能レベルと同じ数だけのダイスを振って、その技能ごとに決まった能力値を足して最終的達成値を求めます。技能がない場合にはダイスを2個振って低い目のほうを選びます。能力値判定ではダイスを2つ振って能力値を足して達成値を求めます。チャンステストというのは、クトゥルフの呼び声の幸運ロールみたいなもので、ダイスを1つ振ってPSY能力値を足します。1が出るとファンブル。

 ここで、能力値の話が出てきたので能力値の説明をしましょう。能力値は全部で10種類あって中々に多め。AGI(Agility):機敏、APP(Appearance):外見、BLD(Build):体格、CRE(Creativity):創造性、FIT(Fitness):体調、INF(Influence):信望、KNO(Knowledge):知識、PER(Perception):知覚、PSY(Psyche):精神、WIL(Willpower):意志、です。そしてこの能力値それぞれに対応した技能があります。

 この能力値の値なんですが、普通に考えると最低値は1だと思うでしょ。でもこのシルエットシステムでは-2から存在しています。値的には-2は酷く劣っている、-1ならそこいら辺の人程度、0なら問題なし、1なら優秀、2なら天才、3なら化け物という感じでしょう。技能に関しても同じことが言えます。ギア操縦の技能をボトムズ的に説明すると、1あれば一般兵士、2ならベテラン兵士、3ならパーフェクトソルジャー、4なら異能生存体、ガンダムのジオン兵的に説明すると1ならジーン、2ならアコース、3ならマッシュ、4ならランバ=ラル、という感じです(わかりにくい?)。まあ技能判定の方法から想像すれば分かる通り、判定ダイスの数がたった1個増えるだけでファンブルの確率は激減し、また期待値はうなぎ上りになるわけですから、技能値の差がどれだけ恐ろしいかは分かるでしょう?

 この恐ろしさはダメージ判定法を知ると強烈にイメージできるでしょう。Dream Pod 9チームはシステムをデザインする上で「スピード感を重視した」わけで、何ともドラスティックな判定なのです。例えばギア戦闘の場合、攻撃側は砲術技能で防御側はギア操縦技能で判定するわけですが、その達成値の差(防御側が攻撃側の値以上なら回避)とその武器の基本ダメージ倍数(DM)を掛けて、求まった値と自分のギアの損傷レベルに対応した値を比較し、そのダメージ値がその損傷レベル以上だった場合にはその損傷レベルのダメージを被るわけです。例えばDMが8のオートキャノンで達成値の差が4ならダメージ値は32となって、一般的なギアであるハンターは軽損傷/重損傷/破壊ダメージは15/30/45ですから、さくっと重損傷になってしまうわけです。そして、攻撃側がの達成値が6くらいで、もし防御側がファンブルならばその差は6、オートキャノンを使用していればダメージ値は48になり、即ギアは大破という楽しい現実が待っています。

 そう、Heavy Gearは「バトルテック」とは違い部位命中システムがないので、戦闘処理はすみやかに終わるのです。Heavy Gearではタクティカルマップでギア戦闘を行う場合には様々なオプションを取ることができるとはいえ、この根本的なスピーディーな展開はまったく変わりません。また、それだけ緊張感のある戦闘を味わえるといえるでしょう。

6.最後に

 さてこのHeavy Gearですが、本国カナダでは大変な人気RPGのようで、背景世界情報やタクティカル戦闘、果てはギアのフィギュアなど、本当に多数のサプリメントやアクセサリーが発売されています。また、Windows用の3Dアクションゲームがアクティビジョン社から「Heavy Gear」というまんまの名前で、二作目まで発売されています(ちなみにこのゲームも「メックウォーリアー」というFASAの「バトルテック」の3Dアクションゲームと激しく競合しているとか)。日本ではこちらのコンピューターゲームの方が断然人気ですかねぇ。最近では、天下のソニーと提携してアニメを作っているとか、何故かスペイン語版が発売されていたりします。

 スタート地点が日本のアニメーションへのオマージュっぽいとはいえ、さすがはOtakuパワー、そのゲームとゲーム世界の作り込みは源泉である「装甲騎兵ボトムズ」を超えつつあります。みなさんも興味があればインターネットや海外RPGを販売している店などで購入してみてはいかがでしょう。



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