RPGシステム紹介

今、世界は狙われている
〜『ナイトウィザード』勝手にレビュー〜

文責:白兎

はじめに

 2002年4月1日にエンターブレインより発売されたRPG『ナイトウィザード』! デザイナーは、海産物名は世界最強の鎧の称号と名高い『セブン=フォートレス』シリーズで有名な「きくたけ」こと菊池たけし先生! 今、巷で話題沸騰中とも噂されるナイトウィザードの魅力に迫ってみたいと思います!

 以下、文中では次の略称・呼称を用いています。

 NW:ナイトウィザード
 星メモ:スターダスト・メモリーズ
 S=F:セブン=フォートレス、およびそのシリーズ
 無印:セブン=フォートレス 1st(クラシックを含む)
 Ad:セブン=フォートレスAdvanced
 EX:セブン=フォートレスEX
 V3:セブン=フォートレスV3
 パワード:セブン フォートレス パワード
 きくたけ:菊池たけし先生
 註:原稿執筆時(2003年3月現在)からの時間経過により、現状とそぐわない部分が生じうることをあらかじめご了承ください。

紅い月が昇るとき
 〜ナイトウィザードの世界観〜

 現代魔法ファンタジーを標榜した『NW』の世界観は、簡潔に言うとこんな感じです。


異界とを繋ぐゲートを開く紅い月が昇るとき、“科学”という名の結界を打ち破り、謎の侵略者“エミュレイター(侵魔)”が迫り来る。生命の源でもある“プラーナ”を狙うエミュレイターに対抗できるのは、特殊な力に目覚めた“ウィザード(魔法使い)”のみ。人知れずこの世界を守るために“ウィザード”たちは戦うのであった。

 この設定により、PCの立場は非常にわかりやすく定義されています。プレイヤーはウィザードとなってエミュレイターと戦う、ヒロイックな展開を繰り広げます。紅い月が照らす下、時には“箒”に跨って夜空を駆け抜け、世界を、そして愛するものを守るために敵を討つ、それが与えられた命題です。同時にGMも敵も出しやすくなっています。GMが“エミュレイター”だと主張すれば、怪獣だろうが、ICBMだろうが、ゴキブリだろうが何でもござれ。さあ、みんなで一致団結して世界の敵と戦おう!

 舞台にも目を向けてみましょう。“現代”という時代のため、様々なギミックも想像しやすくなっています。高校生活を楽しめるように輝明学園という公式設定も用意されています(『星メモ』に詳細)。「一見どこにでもいるごくごく普通の高校生なんだけど、ひょんなことで世界の平和を守るウィザードになっちゃったからもう大変」というPCも作れます。当然、都合のいいことに我々の身の回りにあるアイテムがPCの周りにも存在しているのです。携帯電話も然り。ついこの前まではポケベルをアイテム所持しているかどうかで一悶着もあったのに……時代は変わった。

 さて、設定の中で特筆すべきなのは“紅い月”の存在です。クライマックスを暗示するシナリオ上の武器となります。紅い月を背にして佇むとビジュアル的にもかっこいいものです。同時に、紅い月を絡めることでプレイヤーにエミュレイターの関与を示唆できるので演出もしやすいでしょう。さらにエミュレイターとの決戦の場である[月匣(フォートレス)]と呼ばれる異空間が展開されるのを目の当たりにすれば、自ずと熱いシチュエーションを作り出せるでしょう! これはもう紅い月の存在を使わずにおく手はありませんね。

どこかでみたような……?
 〜ナイトウィザードのシステム〜

 何処かで見たことのあるようなシステム……。それもそのはず。このシステムには兄貴分がいます。その名はS=F、古き良き趣を内包したファンタジーRPGです。先に述べた[月匣]は『Ad』『V3』のフォートレスに相当します。そのためルールの大半はS=Fと共通です。さらに、驚く事なかれ。『Ad』以降のS=Fは『NW』とデータのコンバートが可能なため、追加データ集としても活用できます(やろうと思えば『無印』からでもコンバートできます)。しかし、S=Fを遊んだ人は誰しも一度は使ってみたい、“S=Fの代名詞”ともいえる例の鎧はコンバートの必要がありません。なぜならカニアーマーはデフォルトで収録されています。これで心おきなく《蟹光線(イブセマスジ)》が撃てます! すごいぞ『NW』! さすがは姉妹品

 しかしながら、きくたけの新作と謳っていただけあって、『NW』は、発売当時のS=Fの規格であった『Ad』と細部がいささか異なっています。例えば、

……などといった具合です。また『Ad』よりも特殊能力の派手さがアップしています。S=FのPCはプラーナと闘気はまさっていても、『無印』の「バーニングポイント」か『EX』を導入しないと力負けます。S=Fの特殊クラスのデヴァインウォーリアよりも強化人間の方が強いという事実は涙を誘います。

なお、このルールの改訂は、最新版のS=Fである『V3』にも一部引き継がれ、『NW』とのルールの互換性がより高められています。また『NW』で作ったキャラクターをS=Fで遊べるように『パワード』でコンバートすると、データや特殊能力が一部変更されて他のクラスとのバランスがとれるので、極端に優位という状態は解消されます。

求む、探索者!
 〜ナイトウィザードのクラス〜

 『NW』では16種類のクラスが用意されています(『パワード』を使えばS=Fのルールを使いながら『NW』の全16クラスを使用できます)。『NW』には、「勇者」「魔法使い」「聖職者」といったおなじみのクラスがあります。その他に「陰陽師」「強化人間」といったクラスで味付けがされています。ファンタジーRPGをしたことがあれば、比較的クラスの理解はしやすいと思います。

 ここで少し脱線してS=Fの昔話になります。『無印』の頃はダンジョン探索用のクラスがありませんでした。そのため、回避力に優れたライトウォーリアをシーフ(スカウトなどシステムにより呼称はいろいろ)の代わりにし、頑丈なヘヴィーウォーリアを生きた盾にして攻略してきました。そして『Ad』はダンジョン探索を売りとしているため、それ用の専門職として「エクスプローラー」というクラスが導入されました。これにより、『無印』での回避力に優れたライトウォーリアをシーフの代わりにするという慣習は過去のものとなりました(でもヘヴィーウォーリアは相変わらず……)。

『NW』の基本的な遊び方では『Ad』同様に[月匣]といういわゆるダンジョンを探索します。S=Fでの経緯をふまえて『NW』でも「忍者」というシーフぽいクラスが導入されているようです。しかし、特殊能力でトラップを多少感知しやすいとはいえ、利点が今ひとつ発揮されていません。【知覚力】の高いPCなら罠を次々に発見できてしまいます。16種類あるクラスの中に「吸血鬼」やら「人狼」やらがいるぐらいなら、怪盗セイント・テールとか神風怪盗ジャンヌとか怪盗きらめきマンとかをモチーフにした「怪盗」というより探索・隠密能力に特化したクラスも作って欲しかった。

 もう一歩踏み込んで苦言を呈せば、先に挙げた「忍者」に限らず、他のクラスでもパーティーの役割による他との差別化が難しいという問題があります。特殊能力の多くが戦闘用であり似たり寄ったりです。特殊能力よりもむしろ見た目(ヴィジュアル・イメージ)による差別化が重視されているように感じます。『無印』のように攻撃型プリーストを作れると喜ぶ方もいらっしゃるでしょう。しかし[月匣]の攻略に重きを置く(ように読みとれる)ルールブックの記述に従えば、『Ad』の成果を下敷きにしたクラスを用意した方がよいのではと思えてなりません。また、レベルが上がるたびに戦闘バランスが崩れていくのも問題です。魅力ある世界を用意してもバランスがとりにくいのであれば、システムのせいで設定を活かし切れません。そのためにデータよりも見た目重視の軽薄な作りに見えてしまい残念です。

おわりに

 このままではいっこうに『NW』の魅力を伝えられていない気がするのは気のせいでしょうか……。とにかく『NW』はいい意味で古くさいシステムであるため、灰汁の少ないところに魅力があります。必要なインターフェイスは、キャラクターシートやマップなどのコピーを除けば2D6ぐらいと遊びやすくなっています。マーカー程度ならあり合わせのもので代用できます。専用のチットパックを買う必要はありません。最近の某系列の和製システムみたいに縛りやら縁故やらがいっぱいあってプレイヤーは雁字搦め、かっこいいセリフを言わないとボーナスがもらえない……というか何もできない、プレイヤーの都合がいいようにシナリオの整合性をいくらでも無視できる――なんていう世界とは(いちおう)無縁です。

 それに、このシステムの普及に向けて『ゲーマーズ・フィールド』誌を筆頭にして、雑誌やウェブで大々的にキャンペーンをおこなっています。なんだか今後も非常に期待が持てますね。でも、リプレイを連載している雑誌の選択には、なんだかなあと思う今日この頃。リプレイが一冊の本になるのを心待ちにしています。

 何はともあれ、特定の世界を再現するためだけに作られたシステムが多い昨今。扱いやすいルールに着目すれば、いまどき珍しく汎用性の利くシステムといえるでしょう。少しカスタマイズすれば、オリジナルの世界を遊ぶのにも使用できます。きくたけファンやPCへの縛りがやたら多いのが鬱陶しいと感じる人には、『NW』は比較的楽しめるシステムではないでしょうか。




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