第3回「紅の真実」


●倒れた仁●
 紅の声が頭に響くと、仁はバタリと倒れてしまった。仁と一緒に帰ってきていた神無は倒れた仁を見つけ、慌てて仁を介抱する。
すぐに仁と「紅」との間に何らかの力のつながりが生じているのを感知できたので、「紅」に対して神無が「お父さん!」と呼びかけるも、特に返答も効果も無い。結局そのままでは如何ともし難く、神無は聖光霊宗に連絡をとり、仁は総本山へと搬送されることになった。

 聖光霊宗総本山で仁の容態を詳しく診た結果、仁は紅に魂を取り込まれた状態にあることがわかった。
「そんな……! 治療法はあるんですか!?」
「す、すまんが、我々にはわからん……」

 聖光霊宗のお偉いさんの希望を打ち砕く言葉に、一同どうしたものかと途方にくれるが、とりあえずはかつて聖光霊宗に属していた法具作りの専門家で、紅の製作にも携わっていた人物、瑞地 栄(ミヅチサカエ)とを追うことにした。
●神山の結界●
 調査を開始するも、聖光霊宗の誰も、引退した彼女の居所を知らない。ただ僧の一人が、やはり引退した情報部のかつてのトップ、天綱 義慶(アマツナギケイ)が何かしら知っているのではと教えてくれた。
 天綱と連絡をつけて会いに行こうとした時に黒木から、神山の結界石の力が弱まっていると報告を受け、天綱に会う前に一度様子だけでも見に行こうということになった。

 早速皆で神山に向かうが、神山はその領域全体に妖怪を退ける結界が働いているため、神無とカグヤは気持ちが悪くなって近づけず、登山口で待つことになった。
やや少ない人数で山を登ることになったわけだが、幸い敵は現れず、頂上の結界石を調査することができた。

結界石は特に傷がついているとかそういうことはない様子。どうやら遠距離から何らかの力が働いて、その結界石としての力を阻害されているらしいということがわかった。結界石の力が弱まっている理由はわかったが、解決法がすぐに見つかるわけでもない。
黒木が今後山狩りを地道に行い、怪しいものを見つけ出すという方針で決定し、PCたちは天綱の家に向かった。
●紅の真実●
 天綱の家では、天綱の息子の嫁さんや孫が一同を出迎えた。お茶とお菓子をいただきながらののどかな対談(あまりに和やかだったので、この一家後で死ぬんじゃないかと不安になったくらいだった)の中で、天綱は端地の居場所は分からないが外法に詳しい九条 蓮壇(クジョウレンダン)に連絡をつけることを約束してくれた。
実際連絡はうまくつき、九条とPCたちはは適当な場所で待ち合わせをして、話をすることができた。

現在の紅と仁の状態を話すと、
「紅のところへ連れて行くと約束すれば製作について話す」
と、九条が条件を出してきた。
紅は聖光霊宗の宝物の一つなので、これに関しては聖光霊宗に属さない者たちにはその可否はわからない。PCたちの中で唯一バリバリの聖光霊宗である誠二に判断が委ねられ、誠二はOKの判断を下し、九条は紅の製作秘話を話し始めた。

「もともとは、対オロチ用の武器を作成するために外法に詳しい者たちが集まったのが始まりなのだが…」
外法とは、よくわからないが、時に生贄を必要としたりするいかがわしい術らしい。
しかし、代価を払う分強力なものになるらしく、その刀作りにおいては神無の父親である緋炎の角とその魂を贄に、強力な武器を作ろうとしたのだという。

「しかし、緋炎の魂が予想以上に損傷が激しくてね、人身御供で他の魂を追加して、不足分を補う必要が出てきてしまったんだ。その時立候補したのが、御影という男だった……」
御影とは、刀の製作において中心的な役割を果たしていた者たちのうちの一人で、魂の操作などを専門にしていた。
この男の魂が緋炎の魂に加えて刀に宿らされ、できたのが紅だった。

「なかなかに食えぬ男だったからな……。ひょっとしたら、自ら刀に宿ることで、今回の事を引き起こしたのかもしれん」
九条は紅製作について丁寧に説明をしてくれて、さらに現在意識不明に陥っている仁を助けるにはどうしたら良いのか助言もしてくれた。

「一番効果的なのは、取り込まれようとしている魂自身に戦ってもらうことだな」
「な、なるほど……。で、それってどうやるんです?」
やっぱりわからないことだらけだったので、見せると約束したことだし、九条を総本山にすぐに連れて行くことにした。
●妖怪のデモ→暴走●
話をしていた喫茶店を出ると、何やら街が騒がしい。騒がしいどころか、何と、市庁舎の前で妖怪や半妖たちが暴れまわっていた。
どうやら人間社会における不遇に不満を抱いた妖怪たちがデモを行い、そのまま暴徒化してしまったらしい。
神無の同級生であり、カグヤの生徒でもある妖怪学校の生徒たちも何人か加わっていたので、慌てて止めようとするも遅く、彼らは引っ立てられ、留置場へ送られてしまった。

「あいつら、街中で暴れるなと言ったのに……馬鹿どもが……」
去りゆく護送車を見つめながら脱力する神無とカグヤ。
●「紅」盗難●
事も済んだし行きますかというところで、聖光霊宗総本山から緊急の連絡が入った。
「紅が……! 紅が盗まれました!」

最初聞いた時には、あの聖光霊宗という組織はどこまでざると言うか、アホなんだと思われた(注:カグヤ談)が、どうやら盗んで行ったのは妖怪の一団らしい。
突然総本山に殴り込んできて紅を強奪していったという。
「まあ相手が妖怪なら、奪われても仕方ないのか……」
「でも、聖光霊宗って妖怪専門の組織じゃないっけ?」
やっぱり駄目組織の匂いがするなと思いつつ、一同は九条も加え、総本山に急ぎ引き返したのである。

「妖怪たちが、『繰和様は納得しても我々は納得しない!』と……」
「首謀者は一匹の鬼のようで、『弟は返してもらう!』と去り際に言っておりました」
聖光霊宗の僧たちは元気に話して聞かせてくれた。どうやら大きな鬼が驚異的な強さで僧たちをなぎ払い、刀を奪って行ったらしい。その話を聞いて、神無は昔のことを思い出した。
「そう言えば…お父さんには、お兄さんがいたよ」

神無の父の兄、つまり神無からすれば伯父にあたる鬼が、今回の強奪の首謀者らしい。神無の記憶によると、伯父の名は轟雷。暴れん坊で、単純で、好戦的であったという。

いかにも話し合いの通じなさそうな人物像に微妙に嫌な気分になりつつ、対応策を協議するPCたち。
その合間に仁の様子を見てみると、呼吸が荒くなり、以前より体調が悪くなっているのに気がついた。
「紅」と引き離されたことがどうやら原因らしいとわかったので、ゆっくり話しても居られなくなり、まずは繰和様に会いに行くことにした。
●轟雷追跡●
「轟雷の気持ちもわからんでもない」
さすが妖怪の総大将だけあって、繰和は轟雷に対して好意的だった。仁の体調が悪化した事、それに関連して紅製作で外法を用いた事を話すと、さらに人間への感情を悪化させたようで、
「これだから人間は……」
とまで言い出してしまう。

これは轟雷から紅を取り戻すのに協力してもらうのは難しそうかと思われたが、神無が自分の父、緋炎の思いについて語り、繰和への説得を試みた。
「確かに父の魂は外法によって刀に取り込まれました。しかし、父はオロチを倒すことを望んでいたのです!」

神無の言葉に、繰和はしばらく悩んだ後、人間が「紅」を持つことを再び了承。轟雷の縄張りを教えてくれたので、一同は仁を交代で背負いつつ山に向かった。
●陰陽寮登場●
教えてもらった縄張りは、静かな山中で、しばらく歩いても鬼や妖怪が襲いかかってくる様子は無かった。好戦的な伯父さんとすぐに戦いになる覚悟を決めていただけに、少し拍子抜けしながらも山中を捜索する。

しばらくすると、鬼が一匹倒れ伏しているのを発見した。轟雷ではないが、どうやらその子分らしい。
「三人の人間にやられた……」
と弱々しい声で言うその鬼の周囲には、焦げた符が落ちていた。

自分たち以外にも轟雷と「紅」を狙っている集団がいるとわかると、PCたちはその鬼から轟雷の住処を聞き出して、大急ぎで向かった。

轟雷の住処である洞窟に突入すると、三人の陰陽師の姿があった。そのうち一人は片手に鬼を引きずり、また一人は手に「紅」を持っていた。引きずられている鬼はどうやら噂の轟雷のようだったが、すでにやられて気を失っているようだった。

「その刀、我々のなんで返してもらえませんかね」
と、だめもとで話しかけてみるが、やはり無駄に終わる。結局、誠二の「しょうがない…」の一言で陰陽師軍団と戦闘に突入した。

とりあえず前衛が思いきり殴りつけてみると、なんとその衝撃がこちらに伝わってきたりする。敵は符術の専門家だけあって、物理攻撃を反射する符などを装備していたのだ。
仕方なくまずは符だけを狙って攻撃したりと、かなり苦しい戦いを強いられつつ、佐々と名乗る陰陽師を残して敵を打ち倒すことに成功する。

これ以上の戦闘は互いにきつかったので、こちらが倒した二人と、轟雷、「紅」を引き換えにして、陰陽師:佐々には立ち去ってもらった。
●仁、救出●
戦闘後しばらくして、轟雷は目を覚ました。何があったか事情を話し、「紅」を持っていくことの許可を求めると、やはり最初はごねたが、神無が繰和にしたのと同じ風に説得すると何とか納得してくれた。

こうしてPCたちは見事紅を取り戻し、総本山で仁と「紅」を並べて九条に見せてみた。
「この…仁君にゆかりのものを集めて、早急に儀式を行う必要があるな」

魂の取り込みが進んでいて、早くこちらに呼び戻さないとまずいらしい。早速、仁に関係のあるものを集めまくり、仁の魂を戦わせる儀式の準備を進めたが、そろそろ準備も終わり儀式にとりかかれるかと言う時、仁の口から声が漏れた。
「私を壊そうとするのか?」
「やめてくれぬか?」
儀式をやめるようにと言ってくる、仁の口から出る仁のものでない声。アホか? やめるわけないだろ、と思いながらも、その声の語るところを聞かざるを得ないPCたちだった。

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