ようこそ、シンカイへ!

3/26の例会で行われたセッションのレポートです。

タイトル:ようこそ、シンカイへ!
システム:クトゥルフ神話TRPG6版
GM:いずか

【シナリオ概要】
 時は2037年。仲の良いPC達は大学の夏休みを利用して旅行にやってきた。旅行のメインは1年ほど前に新しくオープンした深海遊覧施設「ニューシーランド」。深海見学を楽しんでいると、PC達の元に「パパを探して」と頼む少年が現れる。彼と共に行動するうちにPC達は「マップに載っていない部屋」を見つけるが……。

【PC紹介】
PC1:霜月蒼
 知識欲が強く、さまざまな知識を溜め込んでいる医学部の大学生。愛煙家でもあり、常に喫煙所を探している。関西弁。
PC2:竹前彰吾
 通称マッスル竹前。大学では柔道部とボディビル部に所属している。困っている人がいれば筋肉で突破を目指す、義に篤いマッチョ。
PC3:吉田蹴斗
 サッカー部のエースストライカーで、明るく友達が多い陽キャラ。一見、ただの大学生だが……。
PC4:田所裕二
 学者の家系で生まれ育ち、親とは違う研究をしたいと生物学を専攻している。実は陰謀論者で、何事にも疑問を持って接している。

【本編】
・前準備
 ようやっと期末テストも終わった8月のある日のこと、PC達は集まって、旅行の計画を立てていた。行き先は水深1000mという海の底に建設された日本初の深海遊覧施設「ニューシーランド」。直通エレベーターで深海の本館へと降りれば、透明の壁から深海の生物を観察したり、深海の中を歩いているような感覚を味わったりすることができる……それがこのニューシーランドの売りなのだという。
 PC達はそれぞれ、旅行の計画のために情報を集め、それを持ち寄った。その中には「行く度に違う生き物が見れるのが面白い」「フードコートの料理は絶品」などの楽しむための情報はもちろん、「深海にイルカが来るらしい」「外来種が混ざっているような気がする」「閉館時間を過ぎてもニューシーランドにいたら、魚にされてしまうんだって」などの怪しげな情報もちらほら。そんな不思議な情報を共有しながら、PC達は当日のスケジュールを話し合うのだった。


・当日昼パート
 そして時間は経ち、ついに迎えた当日は、この日外出しなければいつするのだと思うくらいにはさっぱりとした青空が広がっていた。しかしそれゆえに日差しは強く、PC達はこの容赦なく肌を炙る光から逃れるようにニューシーランドの館内へと足を踏み入れた。
 チケットを買いゲートをくぐり、深海へと続くエレベーターに入る前に、PC達はグッズショップに立ち寄ることにした。深海生物や「シーくん」という名前のマスコットのぬいぐるみが所狭しと並んでいる。
「シーくん」……半年ほど前から誕生したニューシーランドのマスコットは、目撃されるようになったイルカを元に作っているというのだが……なんというか、イルカというよりは魚に見える。だがその一方で、骨格や鰭の作り自体はイルカのそれのようにも思える、なんとも奇妙なマスコットであった。
シーくんのぬいぐるみやガチャガチャなど、各々でショップを堪能したPC達は、改めてエレベーターに乗り、ニューシーランド本館へと向かった。ここからは水深1000m、電波も光も届かない、人間がこれまで足をつけることの叶わなかった「新しい海」の世界だ。「ようこそ、新海へ!」という明るいロゴと、潜水艦の乗組員のような服装とシーくんのマスクをつけたスタッフに迎え入れられながら、PC達はさっそく深海見学に興じる。
ぶくぶくと熱水が沸き立つチムニー、ゆらゆらと気ままに揺らぐハオリムシの林、クラゲや魚がふらりと訪れる大峡谷……残念ながら噂のイルカは見つけられなかったものの、地上では見られない世界を堪能したり、館内の小さな博物館で深海の歴史を学んだりと、PC達はニューシーランド全体をくまなく楽しんだ。
しかしその中でも妙に目を引いたのは、博物館に置かれていた「深海の都市伝説」という少々胡散臭い項目。曰く、深海には高度な文明を築く魚人がいて、その血を引く人間は地上にも存在するのだとか。他にも魚人とイルカの混血種「ラニクア・ルアファン」のリアルな写真や深海都市のプラモデルもあり、PC達はなんとも言えない不気味さを植えつけられることになる。とはいっても所詮は都市伝説、竹前と吉田はそう割り切って展示を眺めていたが、田所と霜月は完全に迷信だと割り切ることができなかった。絶品と有名なフードコートの料理に友人が舌鼓を打つ中でも田所は食欲が湧かず、この施設に何らかの陰謀が眠っているのではないかと疑い続けていた。
そろそろ帰ろうか、そう思っていたその時、吉田の足に何かがぶつかる。なんだと思って見下ろすと、そこにいたのは3〜4歳ほどの少年だった。「あれ、パパじゃない……」そう悲しげに呟く彼は、どうやら館内で迷子になってしまったらしい。PC達は彼の父親を一緒に探すことを決める。「青波太平」と名乗る彼曰く、大好きなニューシーランドに父親と一緒に来ていたが、フードコートではぐれてしまったのだという。
しかし館内を一周巡っても、彼の父親は見つからない。再度フードコートへ足を踏み入れたその時、太平は突然「なんか、あっちな気がする!」と叫び、駆け出してしまった。PC達がそれを追いかけると、なんと彼はマップにはない「壁の向こう」にある部屋を見つけ、中に入っていく。そこは暗くて狭くて深海の音がよりはっきりと聞こえる、明らかにニューシーランドとは違う雰囲気の異質な空間だった。しかし太平はこの異質な空間を恐れるどころか心地よさそうな表情を浮かべており、「行かなきゃ、パパがいる……」とより暗い部屋の奥へと進もうとしている。
だが、心地よさを覚えているのは太平だけでは無かった。吉田もまた、この奇妙な空間に対して得体の知れない安心感を覚えていた。例えるのならそれは、故郷に帰ってきたかのような不思議な脱力感。それ以上の幸福は、部屋の奥へと進むことで得られるのではないか……そんな予感が頭を巡り、彼は太平と同様に奥へと進みたい衝動に駆られる。そして霜月、竹前、田所も、そんな2人と共に奥へと足を運んだ。
一歩、また一歩と進むにつれて少しずつ光が薄れてゆく。少しずつ頭もぼうっとしてきて視界が完全に暗闇になった辺りで、PC達は気づいた。自分達は今、たった1人で海の中にいる、と。いつからいたのかというのは全く分からず、ざぶんと入っていった覚えもない。本当に、「いつのまにか全身が水中の沈んでいる」のだ。ふらふら、ゆらゆらとそれぞれの身体は水圧によって無秩序に運ばれ揺られ、気づくとその身体は、巨大な未知の都市の中にいた。だが都市といっても、そこに見覚えのある建造物は一切見られない。眺めるほどに視界が歪みそうになる立体建築、タコとコウモリを混ぜ合わせたような奇妙な生物の彫刻、象形文字のような多種多様な図形の列が彫られた石碑……それはまるで、博物館の「深海の都市伝説」のプラモデルにそっくりであった。


・当日夜パート
 そんな光景に禍々しさを覚えたところで、PC達は目を覚ます。そこは暗くはあるものの、床も空気もあるニューシーランドのエントランスだった。先程見た光景は、夢だったのだろうか。そう思いながら起きあがろうとして、はたと気づく。今、この場には3人しかいないということに。倒れていたのは霜月、竹前、田所。吉田と太平がいないのだ。いや、それどころかスタッフを含め、3人以外の誰もここにはいない。照明はほとんどが消されていて、エレベーターも作動しない。一体、何が起こったのか。そもそも自分達はどうしてこんな状態になったのか。霜月がどうにか今の自分らの状態から壁の奥に入ってからの出来事を推測しようとしたが、分かったことは「意識のないうちに部屋から出てきて、エントランスで倒れていた」ということだけであった。

 一方その頃、吉田も別の場所で目を覚ましていた。こちらは全く何も見えず、どうにかスマホで照らすことで岩のような冷たくごつごつとした床で眠っていたことだけが分かる。するとそこで聞こえたのは、「あ、起きたんだね、お兄さん!」という楽しげな太平の声。太平は暗闇でも目が見えるようで、「えっとね、上にね、『よ、う、こ、そ、……? へ』って書いてあるよ」と当然のように壁の文字も読んでみせる。どうやらエレベーターはなく、先に進める通路は一つだけらしい。

状況は分からないが、とにかく太平の父親を見つけて仲間と合流し、帰らなければ。2人と3人は、それぞれで合流を目指し施設を歩くことになった。

 霜月、竹前、田所の3人は館内を回るも、吉田や太平は一向に見つからない。半周はしただろうか、といったところで徐ろに彼らの目の前の「staff only」と書かれた扉が開いた。常識的に考えれば、そこから出てくるのはスタッフだろう。しかし彼らの目の前にいたのは、服装こそスタッフのものであったが、人とは到底思えない頭を持った化け物であった。青ざめた肌、飛び出た眼球、そして鱗にも見えるような頭頂部を覆う痣……まるで魚のようにも見える頭部を持った化け物もまた、PC達の存在に動揺を隠せずにいるようで、「なぜ、ここに……ひとがいる」と呟いている。が、化け物はすぐに両腕を振り上げ、「みられ、た……にが、さ、ない……」と両腕を振り上げ、驚くPC達に襲いかかった。
 すぐさま竹前が立ちはだかり化け物を押さえつけにかかり、霜月と田所は距離を取った。化け物は並大抵の人間には敵わないであろうがっしりとした体格をしていたが、体格なら竹前も負けてはいない。培ってきた柔道の技で化け物を捕え、拘束することに成功した。霜月が化け物の服のポケットから鍵を見つけ、「staff only」の扉の先へ侵入を試みる。

 一方、吉田と太平も同様の姿をした化け物に遭遇していた。しかし彼らは2人を「尊き血を引くお客様」と歓迎し、太平の父親の場所も親切に教えてくれる。ニューシーランドの館長も2人の前には姿を現し、「ここは『尊き血』を引く者のみが訪れることのできる、特別な場所にございます」と説明した。どうやら吉田も太平もまだ自覚をしておらず、完全にその血が覚醒するまでには時間がかかるだけで、何やら特別な家系であるらしい。そのように気前良く2人を歓迎する館長だったが、他の3人がまだいないということを知った途端、慌てたようにどこかへ行ってしまった。
 残された2人は、とりあえず太平の父親の元へと向かおうと歩みを進める。遺跡のような迷路のような、石造りと思われる人工物があちこちに設置されており、スタッフ姿の化け物曰く、「私たちの遠い先祖が住んでいた場所を模したもの」らしい。と、そこで吉田は自分もこの暗闇に奇妙に順応しており、目が見えるようになっていると気づく。試しに2人で写真を撮ってみても外見が変わった様子はないが、心なしか太平の目が赤みを帯びているように見えた。

 スタッフ専用の廊下へと侵入した3人は、更に地下へと繋がる別のエレベーターや監視カメラの部屋があるのを見つけたが、こちらも電源が落ちているらしい。電源を起動するために電源室に行ってみたが、電源の起動にはパスワードが必要でこちらも手がつけられそうにない。パスワードを探すため、PC達はまだ明かりがついているスタッフルームに侵入し情報を集めることにした。
竹前が聞き耳を立て、今は誰もいないことを確認して3人で潜入する。そこにはスタッフルームらしく制服の入ったロッカーやマニュアルの書かれたファイルなどが置かれていた。「ルルイエの方角はこちら」「ラニクア・ルアファンの子どもが行方不明」「ショゴスの扱い方」など、聞きなれない単語や「我々の声は人間と比べると辿々しく」「『尊き血』の故郷に環境を寄せ」といった人間以外の何かの存在を示唆する記述も多く見られる。特にマニュアルの「ショゴスの扱い方」のページには無数の目を覗かせたどろどろと泡立つ巨大な化け物の写真が貼られており、PC達は不気味さを覚えた。だが一方でこのショゴスという化け物は、「スタッフは傷つけるな」という指示を忠実に守っているらしいということに気づき、ショゴスに出会った時のためにロッカーにあるスタッフの服を着ておくことにした。

その頃、吉田は太平を連れて父親がいると思われる奥へと進もうとしていたが、太平が「もうちょっとここで遊ぶ!」と石造りの人工物の中に隠れてしまう。追いかけて捕まえようとするも太平は鬼ごっこをしているのだと思い込んでいるようで、そのまま大人には入れない所まで走っていってしまった。仕方なく吉田は先に父親を見つけるために先に進むことを決める。
その先は、さっきまで入り組んでいた所とは違い、人工物が少ない広めの空間になっていた。壁には窓があり、ちょうどニューシーランドの大峡谷の下に自分はいるのだと吉田は気づく。その窓の近くに、ぼんやりと海を眺めている青年がいた。姿は化け物に近いものの、頭には鱗のような痣はなくしっかり髪が生えており、服装は私服のようだった。吉田は太平から聞いていた父親の名前「青波洋」ではないかと彼を呼ぶが、彼は虚な声で「そうでしたっけ……まぁ、どうでもいいんですけどね」と他人事のように自分の名前をあしらう。どうやらこの空間が心地よく、もう地上には帰らずここにい続けたいと思っているらしい。
吉田は虚なままの洋に、今は記憶があやふやになっているだけだ、あなたは太平くんの父親で帰らなければならないだろうと説得をする。どうにか洋は「何かを忘れているような……」と呟き、しかしそれでもここには未練があるようで「また戻れば、いいですものね」と吉田について行き太平の元へと戻ることを決めた。
太平の元へ戻ると、太平は「わ、すごい、本物?」と何かを見つけて大はしゃぎしているらしい。そんな息子の姿を見た洋は「頭の中が、もやもやする……」と頭を抱え始めた。戻ってきた2人を見つけた太平は、「見てみて、シーくん見つけた!」と手に何かを乗せて見せてきた。それは一見小さな魚のようだったが、確かに骨格はイルカのそれで、しかも当然のように水のない所でも平然としている。スタッフ姿の化け物はそれを聞き、「ほ、ほんとうに、いたん、ですか」と大慌てでやってきたが、シーくんらしき生物は「シャー!」と牙を剥き、太平の中に隠れてしまった。
化け物は残念そうな顔をしたが、どこかそれを予想していたような諦めの表情を浮かべ、3人と一匹をエレベーターへ案内してくれる。その途中で洋は思い出したかのように「ああ、そうだ……僕は、青波洋だ……」と呟き、吉田にこっそりと「帰る時、ここの記憶を消されてしまう。そして楽しかったという記憶だけが残ってまた行きたくなって、そしてこのような魚のような姿になってしまう」と伝えてくる。吉田はそれを聞き、この空間の録画や記憶を消されるという事実を記録しておくことにした。

そのうちに3人も電源室起動のパスワードを見つけ、エレベーターと監視カメラの起動に成功する。カメラを見てみると、吉田、太平、そして父親と思われる男と化け物は「B1F」のフロアにいることに気づく。自分達とは違って、彼らは化け物に襲われることもなく丁寧な扱いを受けているらしい。
エレベーターを降りると、ちょうどそこで吉田達がエレベーターを待っていたのを見つけ、合流することに成功する。化け物も今度は3人を襲うことはなかった。合流したPC達は再度エレベーターに乗り込み、地上のエレベーターまでたどり着く。するとそこには館長がいて、「おや、もうお帰りですか?」と尋ねてくる。遅くまでお邪魔した、ありがとうというPC達に、館長は「お帰りの際には、ここの秘密を漏らさないことを約束していただきたい」と言い、吉田が取っていた記録を消してほしいと告げる。消しているふりをする吉田を怪しむ館長だが、立ちはだかってプライバシーの侵害だと圧をかける竹前に折れ、それ以上の詮索はやめることにした。
しかしエレベーターに乗る直前、館長は突然手をかざし、何かを唱え始めた。記憶を消そうとしているのだと気づいたPC達は呪文の阻止を試みる。館長を庇おうとするスタッフを吉田が気絶させ、竹前が館長を押さえつけ拘束し、なんとか呪文の詠唱は止まった。霜月と田所はまだここに未練があるようである青波親子を引っ張り、竹前は拘束した館長とやはりどこか未練を感じている様子である吉田を連れてエレベーターに乗り込んだ。エレベーターが閉まる直前で館長が何かを企んでいるような笑いを浮かべたが、それを見つけた竹前は躊躇なく館長の首を折り、息の根を止めた。マスクを取ると、館長もまた、魚の頭の化け物であった。
 上へ上へと進んでいくエレベーターの中で、PC達は海から何かが蠢き近づいてきていることに気づく。それは緑色に発光した、泡立つ巨大なアメーバ状の生物で、エレベーターを破壊しようとしているらしい。しかしスタッフの服を着たPC達が手を振ると、その生物は戸惑ったようにエレベーターから離れる。その間にもエレベーターは上昇し、そしてついに全員が記憶を消されることなく、地上へと辿り着くことができたのだった。


・エンディング
 外に出ると、海からキューキューとイルカの鳴き声が聞こえてくる。すると太平の帽子の中にいたシーくんはぴょんと飛び出し、嬉しそうにイルカに向かって飛び込んだ。太平は残念そうな顔をしていたが、吉田の「シーくんも親に会えたんだ」という慰めに頷き、「また会いに行けばいいよね」と笑う。しかしまた来ることは難しいのではないだろうか……内心そう思うPC達と、洋であった。
そして通報によって警察が到着し、6人は事情聴取を受けることになる。特に館長を殺害した竹前はより長い期間警察のお世話になるかもしれないが、相手がそもそも人間と言えるのか分からない異例の状況である以上、司法の判断は難しい所だろう。そしてニューシーランドだが、警察が本格的な調査に乗り込もうとした時には本館は水没しており、調査が叶わなくなっていた。深海という人類にとっての新しい海の世界の真相は、いまだに明らかになっていない。
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